最果てのコーヒー農園をたずねて/東京都・小笠原村父島

最果てのコーヒー農園をたずねて/東京都・小笠原村父島

さて、このコーヒー農園はどこでしょう?ブラジル?インドネシア? 正解は、竹芝から船で24時間、距離にして約1000km離れた、最果ての地・小笠原諸島は「父島」。わずかしか採れない、日本コーヒーの“始まりの地” です。超貴重なコーヒーは一体どんな味がするんだろう? 編集部が5泊6日の旅に出ました

始まりのコーヒーに宿るフロンティアスピリット

左上/2016年に就航した3代目おがさわら丸。先代より所要時間が1.5時間も短縮された。特等室は憧れ 右上/船内レストラン「Chichi-jima」で昼食。オムライスやステーキと悩んで、まずはあっさり島塩ラーメン 左下/出港翌日の9時頃、小笠原諸島の最北端・聟島(むこじま)列島を通過した後、10時過ぎに父島の島影を発見。そろそろ下船だ 右下/二見港からすぐのメインストリート。商店や飲食店、宿が立ち並ぶ。おが丸の入港後は買い物客で混雑

午前11時、出港を知らせる汽笛が鳴る。ザトウクジラのマスコット・おがじろうに見送られ、父島まで約1000km・24時間の船旅が始まる。

世界自然遺産としても有名な小笠原諸島と内地(本土)を結ぶ唯一の交通手段は、片道24時間の定期船「おがさわら丸」。24時間あれば地球の裏側にだって行けてしまう時代である。しかも、ほぼ週1運航のこの船、出港したら帰ってこられるのは6日後。そんな世界の果てみたいな場所へ1杯の稀少なコーヒーを飲みに行く、なんとも贅沢な旅ではないか。

出航してから約2時間。潮風に髪を乱されながら、東京観光を凝縮したような景色を眺めていると、ふいにおなかが「ぐぅ」と鳴いた。船内レストランに入り、いちばん人気という島塩ラーメンをすすりつつ、現在地点を映し出すモニターに目をやる。「父島まで942km」。先は長い…。

その夜、歩行困難なほどの揺れをやり過ごし朝が来ると、窓の外には東京湾とはまったく違う濃く鮮やかな青い海が広がっていた。そして出港翌日のちょうど午前11時、船は父島の入り口・二見港に入港した。11月も半ばだというのに、強い紫外線が肌を刺し(紫外線量は内地の2倍らしい)、熱く、湿った空気が体にまとわりつく。遠くに恐竜が住んでいそうな緑の濃い山々が見える。ぼんやり眺めていると品川ナンバーの車が数台、脇を走り抜けていった。そうだ、ここは東京なのだ。

左上/滝のそばにある竹澤さんのコーヒー農園は実生苗から栽培。2023年にグランピング施設をオープン予定 右上/酸味少なめ、苦みすっきりの小笠原コーヒーをプレスで抽出。コーヒーチェリーティーも美味 左下/2007年、ハンバーガーとフィッシュバーガーからスタートしたカフェ。サメバーガーもファンが多い 右下/父島のメインストリート湾岸通りに面した「ハートロックカフェ」。2本の大きなガジュマルの木が目印

「これから行くのは、島で唯一名前が付いている『常世ノ滝』という滝のそばにあるうちのコーヒー農園です」

島の中心地から車で20分ほど、滝の音がシャワシャワと心地よい森の中に開かれた農園へ案内してくれたのは、ガイドツアーや宿泊施設、カフェの運営など、父島で何足ものわらじを履く竹澤博隆さん。

ここ父島で日本初となるコーヒーの試験栽培が始まったのは、さかのぼること明治時代。栽培の歴史を残すように、島には「コーヒー山」という愛らしい地名も残っている。

「この島に来てガイドとして独立した後、事務所の隣にあった倉庫を改装して『ハートロックカフェ』を開いたんです。せっかくなら小笠原コーヒーを出したいねってことで」

ガジュマルの木がうっそうと生い茂り、人がたどり着けないくらいのジャングルだったこの場所を、木を伐開しながら1年間、スタッフ総出で開墾したそう。父島に移住してから25年以上が経つ竹澤さん。

「景色を変えるのが僕の大好きな仕事。毎日、自由研究している感じですね」

左上/コーヒーツアーを行う「Nose’s FarmGarden」。3~5月は花期、9~12月は収穫期に当たるそう 右上/手で脱穀した生豆を、手煎り焙煎器でロースト。収穫から抽出まで、1杯のコーヒーの尊さを実感する 左下/「Nose’s FarmGarden」のコーヒーツアーで最後にいただく小笠原コーヒー。コーヒーツアー参加者のみ、コーヒー豆を購入することができる 右下/コーヒーツアーでは小笠原コーヒーの歴史はもちろん、精製方法や焙煎度合いについても学べる

さて続いては、明治時代に栽培が始まった際に、コーヒーの苗を譲り受けたという「野瀬農園」へ。種から育った小笠原コーヒーの木々を見学しながら、収穫、脱穀、焙煎、抽出まで、コーヒーが私たちの手元に届くまでを体験するコーヒーツアーを開催している。ツアーの最後には焙煎したての1杯が飲めるのが魅力だ。

「もともと東京でOLをやっていたんです。父は戦後の返還から父島と東京を行き来する生活をしていたのですが、30歳の節目の年に私も小笠原に行こう!って。最初はコーヒーに興味がなかったんです(笑)」と話すのは、ツアーを行う野瀬もとみさん。

「ルーツを知るうちにだんだんと興味が湧いてきて、体験してもらうのがいいかなと思ってコーヒーツアーを始めました」

自分で煎って、自分で挽いて、自分で淹れた1杯は、自然の営みに感謝をしたくなるような格別の味がした。

左上/今シーズン新たに始めたという、コーヒー豆の発酵具合をチェックする宮川さん。発酵させることで風味が変わるそう 右上/「USK COFFEE」には、スペシャルティコーヒーも。注文が入ってから1杯ずつ挽いてドリップしてくれる 左下/宮川さんがすすめてくれた、オーツミルクラテのオ・ツ・カフェ。滞在中に3杯飲むほどハマった 右下/小港海岸から近い「USK COFFEE」は島ガールも常連。イケてる島スポットは「ビーチ」とのこと

小笠原コーヒーと言えば、「USK COFFEE」はもちろん外せない。名古屋からコーヒーの栽培がしたくて父島へ移住したという宮川雄介さんに会うべく、エアストリームが留め置かれた森の中のカフェを訪ねた。店主の宮川さんは、栽培から焙煎まで、コーヒーのすべての工程を1人で行うコーヒー農家である。テラスの横には農園が広がり、250本ものコーヒーの木が真っ赤な実を鈴なりにつけていた。

「収穫は1週間に大体2回で、何キロとかうちは計んない。テキトー(笑)。たくさん採れたね。みたいな」。そうゆるやかに話してくれた宮川さん。採れた実の果肉を付けたまま乾燥させるナチュラルプロセスに、発酵の工程を加える挑戦をしているそう。発酵の進んだ豆が敷き詰められた木板に顔を寄せると、ほのかに甘い良い香りが鼻孔をくすぐった。

「小笠原のコーヒーは可能性ありますね。興味がある人も増えてる。小笠原のコーヒーが広がっていくのはいいことだけど、おいしくなきゃ意味がない。稀少なだけというイメージの方がまだ全然強いし、うちのコーヒーももっとレベルを上げないと」

5泊6日の旅も、島での滞在はわずか4日。二見港に集まった島民に「いってらっしゃーい!」と見送られ、湾内を併走する見送り船に大きく手を振る。さて、船酔いとの戦いだ。

左上/高台から島の集落を一望。写真奥には停泊中のおがさわら丸の姿も 右上/「USK COFFEE」の小笠原コーヒーが飲めるのは、カフェとたまに出店する島のイベントのみ 左下/島民は誰しも1足は持っているという“ギョサン”は、小笠原が発祥。島に来るとつい買い足してしまう 右下/おがさわら丸の出港日、たくさんの島民が船をお見送り。「さよなら」ではなく、「いってらっしゃい」

DATA

■おがさわら丸
TEL.03-3451-5171 (小笠原海運)
※乗船券は一斉発売日を除き、東京出港日の2カ月前同日より発売開始
ホームページ/小笠原海運

■ハートロックカフェ
TEL.04998-2-3317
住所/東京都小笠原村父島字東町
営業時間/9:00~18:00
定休日/無休

■Nose’s FarmGarden
TEL.090-4025-8553(コーヒーツアー予約専用)
住所/東京都小笠原村父島字長谷
※ツアーは前日午前中までに要予約。詳細は公式HP

■USK COFFEE
TEL.04998-2-2338
住所/東京都小笠原村父島字北袋沢
営業時間/11:00~17:00
定休日/おがさわら丸出港中の平日


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