「実は、子どもの失言というのは、親の影響が非常に大きいんです。だからこそ、親御さんは日ごろの発言には十分気をつけなければならないのです」
そう話すのは、子育て本作家・講演家の立石美津子さん。親の影響とはどういうことなのでしょうか?
「私が実際に目にしたこんな出来事がありました。私は幼児の学習塾を経営していたのですが、年長さんのクラスで一人だけ国立の付属小学校に合格した子どもがいました。その子が地元の公立小学校に行く他のお友達にむかって、“みんなはバカが行く学校に入学するけれど、僕は頭の良い子が行く学校に通うんだ”と叫んでいたのです」(立石さん 以下同)
わが子だったら…と、想像しただけでもゾッとしてしまうような失言…。
「もちろん教師としてこの言動を厳しく叱りましたが、子どもがこのようなことを考えて言うはずもなく、たいていは家庭内で親の会話を耳にしたり、言われたりしていて、それをそのまま言っていることが多いのです」
つまり、親の会話や日ごろの発言がその子の口を突いて自然に出てしまうという。
「怖いのは親の言葉を真に受けて口に出しているうちに、それが次第に子どもの心に深く根を下ろし、自身の生きる価値観になってしまうことなのです」
普段からこんなことをお子さんに言ったりしていませんか?
「お子さんを叱るときに、お友達を引き合いに出して“○○くんのように悪い子になっちゃダメよ!”“○○くんのマネをしてはダメよ!”と言ったり、街でみかけたホームレスについて質問されたときに“ちゃんとお勉強しないとああなっちゃうわよ!”と差別的な発言をしたり。尊敬すべき父親のことを“お父さんみたいにならないように、勉強しなさい!”と言ったり。こんなしつけ方をしていたら、人を見下すようなおかしな価値観が小さいころから根付いてしまいます。こんな人が大人になって人から信頼されたり、尊敬されたりするでしょうか?」
もちろん、大人になるにつれて自分の考えを持っていくことは自然なこと。しかし、まだ価値観がまっさらな子どもの前で口にしてはならないことはあると、立石さんは警鐘を鳴らします。
「親御さんだって本音を言いたいときもあると思います。でも、それは子どもが居ないところや、寝たあとに大人だけで話すなどの配慮が必要です。そして、お子さんにも日ごろから、“いろいろと思うことはいいけれど、口に出すのは良い事にしようね。相手の容姿のことや良くない事は口に出さないで心にしまっておこうね”と教えましょう。素直に思ったことを口にすることは大事な姿勢なので、なんでもダメダメと言っていると、逆に何もしゃべらない子になってしまうので、その点は気をつけてくださいね」
“子どもには思いやりのある人に育ってほしい…”そう美辞麗句を言いながら、実践できていない大人が実はとても多いという。
「保護者の方に“どんな人間に育ってほしいですか?”と質問すると、“優しい心を持ってほしい”と言いながら、なかには自分が子どもに見せている態度が180度違っている人がいます。“子どもなんて親の思うとおりになんか絶対に育たない。親がしているように育つ”と言いますが、まさに、これは名言だと思いますね」
わが子の失言に悩んでいる親御さんは、ぜひ、今一度自分自身の行いを振り返ってみてください。
(構成・文/横田裕美子)