訴訟を起こす方法は?メリット・デメリットや費用についても解説

訴訟を起こす方法は?メリット・デメリットや費用についても解説

他人との何らかのトラブルに巻き込まれ、「訴訟を起こす」と決意している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

訴訟(正確には民事訴訟)は、管轄裁判所に訴状をはじめとする必要書類を提出するだけで起こせます。訴訟提起時にかかる費用(収入印紙、郵券代)は、その訴訟でどれだけの経済的な利益を求めるのか、被告を何名とするかによって異なってきます。

訴訟を起こしたいと思う時にむしろ必要なのは、目的と効果を具体的に意識し、本当に裁判外で解決できる道は残されていないのか再考してみることです(もっとも、訴訟で求める請求権によっては時効があり点は注意が必要です。)。時間と手間と費用がかかる上に、確実に訴えた側の主張が認められるとも限らないのが理由です。

そこで今回は、

訴訟を起こすメリット・デメリット
訴訟を起こす方法
訴訟を起こした後の流れ

などについて、弁護士が分かりやすく解説します。

本記事が、何らかのトラブルに巻き込まれて話し合いで解決できず、お悩みの方の手助けとなれば幸いです。

1、訴訟を起こすために知っておくべき「裁判」の基礎知識

訴訟を起こさなければ解決できそうにないトラブルに巻き込まれた時は、まず裁判とは何かを知っておく必要があります。その最たる理由は、トラブルの種類や相手方によってとるべき手続きが異なる点にあります。

また、訴訟を起こす前に「どんな手続きを今後予定しているか」を相手方に知らせることで、この後詳細に述べる面倒な手続きを踏まずとも、裁判外で解決に応じてくれるかもしれません。そうした実務上のメリットのためにも、ここで知識を整理しておきましょう。

(1)民事訴訟(民事裁判)とは

一般に「裁判をする」「訴訟を起こす」という場合、通常は民事訴訟のことを指しています。民事訴訟とは、私人間でなかなか決着のつかない法律トラブルにつき、それぞれの主張を述べて公的な最終判断を下してもらうための手続きです。

なお、裁判手続には「調停・審判」「支払督促」「仮執行」等もあります。これら手続きの中で訴訟を選択するのは、現在進行形のトラブルにつきこれ以上話し合えず、裁判所の判断を仰ぎたい時です。

(2)なぜ訴訟は必要なのか【最終目標は強制執行にあり】

個別のトラブルで訴訟を必要とするのは、単に公に「金○円を支払え」と言ってもらうためだけではなく、その判決を元に強制的な処分(=強制執行)ができるようになるからです。強制執行の手続きが可能となる上記判決などのことを「債務名義」といいます。

何らかの権利の実現や債務履行を求める人の視点に立つと、訴訟を起こすことは次のような意味を持ちます。

▼訴訟の目的(一例)

金銭トラブルの場合→預金口座や不動産を差し押さえる
建物明渡しの場合→実際に出て行ってもらう
契約上の地位を確認したい場合→地位に基づく債務(賃金)を支払ってもらう

(3)民事訴訟の種類

ひとくちに民事訴訟と言っても、その手続きにはいくつもの種類があります。訴訟提起で解決を目指すことの多い金銭の貸し借りを巡るトラブルでは、通常訴訟もしくは少額訴訟となるでしょう。

訴訟の種類を最初に一覧化しておくと、下の表のようになります。

民事訴訟の種類

取り扱うトラブル

管轄裁判所

通常訴訟

個人間や法人間、個人と法人との間で起こるもの(債権回収含む)

140万円以下:簡易裁判所

140万円超:地方裁判所

少額訴訟

60万円以下の金銭の支払いを巡るもの

簡易裁判所

手形小切手訴訟

手形や小切手の支払いを巡るもの(事業者向け)

140万円以下:簡易裁判所

140万円超:地方裁判所

人事訴訟

離婚全般・親権・養育費等、夫婦間や親子間で起こるもの

家庭裁判所(原則)

行政訴訟

処分に納得できない等、国や地方公共団体を相手取るもの

地方裁判所

①通常訴訟

個人間や法人間、あるいは個人と法人との間で起こるトラブルは「通常訴訟」と呼ばれる手続きで解決します。取り扱うトラブルの種類はお金の貸し借りや土地建物の権利関係など財産権に関するものだけでなく、雇用関係で生じる問題や、損害賠償問題など、多種多様なものがあります。

②少額訴訟

60万円以下の金銭の支払いを求める場合は、より手続きが簡略化された「少額訴訟」で解決できます。訴訟を起こす理由の多くが債権回収であり、その全てを通常訴訟で扱うのは負担が大きすぎるとの考えに基づくものです。

簡略化による具体的な相違点として、審理が原則として1回で済む点や(一期日審理の原則)、和解協議が積極的に行われる点、判決に納得できなくても控訴できない(民事訴訟法第377条)点が指摘できます(ただし、異議申し立ては認められています。)。

③手形小切手訴訟

手形や小切手による金銭の支払いを求めたい時には、同じく通常訴訟より簡略化された「手形小切手訴訟」で解決できます。

最初の口頭弁論で審理を完了する点(一期日審理の原則)等、少額訴訟で挙げた通常訴訟との相違点は、手形小切手訴訟でも言えることです。性質上、個人間のお金の貸し借りではなく、事業活動で売上が入ってこない場合に用いることになるでしょう。

④人事訴訟

夫婦や親子間の問題を解決する時の訴訟は、特に「人事訴訟」と呼ばれます。基本的な手続きの流れは通常訴訟と同様ですが、子どもの問題(親権等)を取り扱う際には、家庭裁判所調査官が訪問してくる等と積極的な対応がとられます。

⑤行政訴訟

国や地方公共団体を相手取り、その活動が適正に行われていないと主張する時は「行政訴訟」で解決します。最も多いのは、例えば処分の無効確認あるいは取消請求を趣旨とするものです。

個人の生活に直結するものなら税金や社会保険、地域住民の暮らしに関わることなら発電所の設置許可や運転等、公的機関が適正に業務をする限りトラブル化しない問題を扱います。

(4)民事訴訟と刑事訴訟の違い

本記事で解説する「民事訴訟」は、犯罪を取り扱うものではありません。もはやお金の貸し借りの問題ではなく、詐欺罪や出資法違反等で告発する場合は「刑事訴訟」で裁かれます。

刑事訴訟とは、検察官だけが起訴でき、犯罪行為を本当に行ったのかどうか、その全体の事情から見て罪に応じた刑をどのようにすべきか判断するためのものです。交通事故等の被害者のいる犯罪では、刑事訴訟で処罰を求め(被害者としては捜査機関に対する被害届や告訴により処罰を求めます)、民事訴訟で損害賠償を行う……というように2種類の訴訟をする場合があります。

2、訴訟を起こすべきケースとタイミングの具体例

民事訴訟を起こすべきケースは実に様々ですが、基本的に「もうこれ以上は話し合いできない時の最終手段」だと考えておくと良いでしょう(ただし、時効が迫っているときは、一刻も早く訴訟を提起しなければならない場合もあり得ます。)。金銭・損害賠償・家族の3つのトラブルを取り上げて、具体例と訴訟を起こすべきタイミングを紹介します。

(1)他人にお金を貸しているとき

他人に貸したお金を返してもらえない状況は、民事訴訟に頼るべきケースの代表例です。もちろん、返済が滞るや否やいきなり訴訟を起こす手はないでしょう。提訴のタイミングは以下のように、相手に返済する気がないか、交渉する手段が失われてしまっている時です。

▼金銭貸借契約の関係で民事訴訟を起こすべきケース(一例)

約束した日になっても返済がなく、そのまま何か月も経っている
返済がないまま音信不通になってしまった
督促しても逆上される等、話にならない

(2)交通事故に遭ったとき

誰にでもあり得る損害賠償関係のトラブルとして、交通事故が挙げられます。

特に人身事故の損害賠償金は高額化するのが一般的で、加害者や保険会社が支払いを渋りがちです。特に民事訴訟に発展しやすい問題として、以下のようなものが挙げられます。

▼交通事故で民事訴訟を起こすべきケース(一例)

傷害慰謝料等、相手方の保険会社が提示する金額が相場より少ない
過失割合について当事者双方の意見が食い違う
後遺障害等級認定の結果に納得できないが、不服申立てをしても今以上の等級は期待できないため、

裁判所に認定を委ねる。

(3)離婚したいとき

離婚したいときや、離婚する時の財産分与・慰謝料・親権といった諸問題でも、訴訟を起こすケースが珍しくありません。もっとも、大半は離婚調停や審判で解決することも多く、離婚調停に進むのは以下のような問題で対立し、双方が譲らないようなケースが多くなっています。

▼離婚・夫婦関係で訴訟を起こすべきケース(一例)

離婚にどうしても応じてくれない
双方が親権を強く主張している
養育費を支払ってもらえない

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