ベストセラー絵本の特徴とは?
多くの人に読まれる絵本には、いくつかの共通点が見つかります。子どもを引きつけ、繰り返し読まれる絵本の特徴について考えてみましょう。
共感しやすいテーマを扱っている
子どもは絵本を読むとき、主人公に自分を重ねて物語を楽しみます。そのため子どもたちは様々な受け取り方ができる物語よりも、無理なく感情移入できて分かりやすい話に夢中になります。
子どもが共感しやすいのは、「愛」「勇気」「優しさ」といった万国共通のテーマです。正義が悪を倒す爽快さを感じる、人の優しさに涙するといった感情の動きは大人も子どもも変わりません。
入りこみやすい物語ほど、日常ではなかなか味わえない出来事を疑似体験できます。だからこそ選ばれ、ベストセラーとして読み継がれているのでしょう。
セリフや文章に工夫がある
たとえまだ言葉が理解できない子どもであっても、よく耳にする言葉が出てくる絵本を好みます。そのため0~2歳児を対象にした絵本には、繰り返し言葉やオノマトペがよく見られるでしょう。
3歳以降を対象とした絵本になると、読んでいて一定のリズムを感じるような、絵本らしい文章に出会うようになります。リズミカルな音のつながりは耳に残りやすく、感覚で絵本の世界観を理解できるのです。
ベストセラーとなった絵本には、こうした言葉や文章が効果的に使用されており、より多くの子どもを喜ばせています。
0歳向けのベストセラー絵本
言葉がほとんど理解できない0歳児であっても、お気に入りの絵本にはじっと集中するでしょう。赤ちゃんに見やすいイラストと、繰り返し出てくるフレーズがある絵本を紹介します。
かがくい ひろし『だるまさんが』
「だるまさんが」に続く言葉といえば、大人はすぐに「転んだ」のフレーズを思いつくでしょう。しかしこの絵本に出てくるだるまさんは、転ぶだけではありません。
見開きいっぱいに「だーるーまーさーんーが」と期待をあおった後には、伸びたり縮んだり、つい笑ってしまう姿を見せてくれます。
最初は不思議そうにしていた赤ちゃんも、何度も読むうちにパターンを覚えて興奮しだします。ママが楽しそうに読んでいると、赤ちゃんの反応もますますよくなるでしょう。
・書籍名:かがくい ひろし『だるまさんが』
松谷 みよ子『いないいないばあ』
累計700万部を超えるベストセラー絵本です。松谷みよ子の代表作にして、これまで日本で1番売れた絵本でもあります。
最初に出てくるのは猫です。「にゃあにゃが ほらほら いない いない…」顔を隠した黒猫は、次のページで「ばあ」の声とともに顔を見せてくれます。
赤ちゃんは目と口のある「顔」にとても敏感です。大きな目をぱちくりとした動物たちと目が合うので、きっと赤ちゃんたちも喜んでくれるのでしょう。
読み慣れてくると、まるで「これは猫だよ!」と言わんばかりに声を上げてくれるかもしれません。
・書籍名:松谷 みよ子『いないいないばあ』
安西 水丸『がたんごとんがたんごとん』
真剣な顔つきをした黒い汽車が走っています。最初の乗客は哺乳瓶、その次に待っているのはカップとスプーンです。次々と乗客を乗せて、汽車はいったいどこへ向かうのでしょうか。
「がたん ごとん がたん ごとん」と「のせてくださーい」が、ひたすら繰り返されます。単純なストーリーですが、赤ちゃんは何度読んでも興味津々です。自分の知っているものたちが出てくるためでしょう。
終点につくと、大人も「そういうことか!」とスッキリします。くっきりしたイラストも、赤ちゃんに好まれるファクターなのかもしれません。
・書籍名:安西 水丸『がたんごとんがたんごとん』
1~2歳向けのベストセラー絵本
1~2歳は心も体も大きく成長する時期です。日に日に理解できることが増えていくので、発達に合った絵本を選んであげましょう。
エリック・カール『はらぺこあおむし』
エリック・カールによる世界的ベストセラーです。おもちゃやギフトのモチーフにも使用されることが多く、絵本を読んだことはなくても、キャラクターは知っているという人もいるでしょう。
はらぺこのあおむしは、1週間をかけて様々な食べ物に穴を開けていきます。絵本にも実際に穴が開いていて、子どもは引き寄せられるようにこの穴に指を突っ込むでしょう。
食べすぎたあおむしがおなかを壊して泣くシーンでは、1歳の子どもでも眉をへの字にさせるかもしれません。かわいらしい子どもの様子に、何度も読んであげたくなってしまう作品です。
・書籍名:エリック・カール『はらぺこあおむし』
せな けいこ『ねないこだれだ』
おばけといえば子どもが怖がるキャラクターのひとつですが、『ねないこだれだ』に出てくるおばけは、なぜか子どもを魅了してやみません。
「こんな じかんに おきてるのは だれだ?」と、冒頭から不穏さが漂います。寝ない子はおばけになって連れていかれてしまうという、子どもにとってはかなり刺激的な内容です。
黄色い目玉に赤く裂けた口と怖い様子ながらどこか親しみのわくおばけは、大人でも不思議とくせになります。寝かしつけにも役立ちそうですが、怖がらせすぎないよう注意しましょう。
・書籍名:せな けいこ『ねないこだれだ』
A.トルストイ『おおきなかぶ』
おじいさん・おばあさん・孫…とどんどん人手が増えていき、非力なねずみまで加わって巨大なかぶを抜くお話です。小学校1年生の教科書にも載っています。
ただ、2歳となると「どんなに小さな力でも、みんなと協力すれば役に立つ」といった教訓を考える時期ではないかもしれません。おすすめのポイントは「うんとこしょ どっこいしょ」のかけ声です。
何度も繰り返し出てくるセリフなので、子どもと一緒に叫んでみましょう。かけ声のかわいらしさと、かぶが抜けたときの達成感がたまりません。
・書籍名:A.トルストイ『おおきなかぶ』
3歳向けのベストセラー絵本
3歳になると、簡単なストーリーを楽しめるようになるでしょう。日常ではなかなか経験できない、想像力を広げる力を持った絵本を紹介します。
なかがわ りえこ『ぐりとぐら』
有名な『ぐりとぐら』シリーズの第1作です。ねずみのぐりとぐらが卵を見つけ、「このよで いちばん すきなのは おりょうりすること たべること」と歌いながら特大カステラを作ります。
においにつられて森中の動物たちが集まるところで、子どもは大喜びです。シカやクマなど森の動物はもちろん、ライオンやワニまでやってきて、みんなで仲よく分け合います。
言葉のチョイスが秀逸で、簡単な文章なのにその情景が鮮やかに浮かび上がるようです。読み終わったころには、カステラが食べたくなっていることでしょう。
・書籍名:なかがわ りえこ『ぐりとぐら』
ノルウェーの昔話『三びきのやぎのがらがらどん』
登場する3匹のヤギは、みんな同じ「がらがらどん」という名前です。おいしい草がたっぷり生えている丘へ行くには、吊り橋を渡らなければいけません。
しかし吊り橋の下には、恐ろしいトロルが獲物を待ち構えています。はたして3匹のヤギたちは無事に橋を渡れるのでしょうか。スリルいっぱいの物語に子どもは釘付けです。
少し荒々しい絵柄がストーリーを引き立てます。トロルと戦うシーンはなかなかの迫力なので、怖がらせないように読み方を工夫してみるとよいかもしれません。
・書籍名:ノルウェーの昔話『三びきのやぎのがらがらどん』
アレックス・ラティマー『まいごのたまご』
強風にあおられて、巣穴から転がり落ちてしまった恐竜の卵が、自分の親を探す物語です。様々な種類の恐竜たちがやってきますが、なかなか家族が見つかりません。
「あなたのたまごじゃ ないみたい」とがっかりする卵が、読み進めるうちにだんだんと心配になってきます。
卵の中身が透けるシーンでは、ページをめくる前に、実際に明かりに透かしてみましょう。恐竜好きな子どもなら、卵の家族を当ててしまうかもしれません。
どことなく北欧を思わせるイラストもすばらしく、恐竜の特徴を覚えるのにも役立ちそうです。
・書籍名:アレックス・ラティマー『まいごのたまご』
4歳向けのベストセラー絵本
4歳児を対象とした絵本になると、大人の心すら揺り動かす作品が増えてきます。引き込まれるストーリーや工夫で読み聞かせをいっそう豊かにするベストセラー絵本は、次の3冊です。
浜田 広介『ないた赤おに』
心優しい赤おには村人たちに怖がられ、毎日悲しみに暮れていました。そこで青おには乱暴者を演じて赤おにに自分を退治させ、赤おにが村人たちに信頼されるきっかけを作ってあげたのです。
友だちの赤おにを幸せにしてくれた青おには、赤おににメッセージを残して姿を消します。このメッセージが物語の山場です。子どもの心のなかに、友だちを大切に思う心を育ててくれるでしょう。
『ないた赤おに』は様々なイラストレーターが挿絵を手がけています。なかでも、いもとようこのイラストは、ふんわりしたタッチで鬼も優しい雰囲気に描かれているため、子どもが怖がることも少ないかもしれません。
・書籍名:浜田 広介『ないた赤おに』
林 明子『こんとあき』
動くキツネのぬいぐるみ「こん」は、「あき」が生まれてからずっと一緒にいました。こんのほつれた腕を直してもらうため、あきは「さきゅうまち」にいるおばあさんの家に向かいます。
旅の途中、こんとあきは何度も困難に出会います。大人なら何でもないことですが、子どもにとっては大事件です。こんの「だいじょうぶ だいじょうぶ」に、読み手も祈るような気持ちにさせられます。
子どももこんとあきの気持ちに寄り添い、冒険のドキドキ感を味わってくれるでしょう。
・書籍名:林 明子『こんとあき』
香山 美子『どうぞのいす』
見知らぬ誰かを気遣う動物たちに、ほっこり心温まるストーリーです。
ウサギがひと休みするために作った「どうぞのいす」は、ロバの予想外の行動により「いすの上にあるものをどうぞ」のいすになってしまいます。
そこへ動物たちが代わる代わるやってくるのですが、彼らはみんな「もらうだけでは悪いから、代わりにこれを置いていこう」と別の食べ物を置いていくのです。
「また違うものになっちゃった!」と子どもがクスクス笑うような、コミカルな要素も楽しめます。
・書籍名:香山 美子『どうぞのいす』
5歳向けのベストセラー絵本
5歳ごろになると社会性が芽生え始め、自分と他人の関わりをより強く意識できるようになります。次に紹介する3冊は、感情への想像力や共感力・深く考える心を育む助けとなるでしょう。
佐野 洋子『100万回生きたねこ』
この絵本に出てくる「ねこ」は100万回生きて、100万回死んだことがあります。しかしあるとき、「ねこ」は誰の飼い猫でもない、自由な野良猫として生まれてきました。
なぜ「ねこ」は、何度も生まれ変わったのでしょうか。その理由は「ねこ」が運命の白猫に出会ったことでほのめかされます。ラストは涙が止まりませんが、きっと「ねこ」はこの上なく幸せだったのでしょう。
子どもにはまだよく分からないかもしれません。あえて物語の意味を教えず、子どもなりに答えを出すまで何度も読んであげてはいかがでしょうか。
・書籍名:佐野 洋子『100万回生きたねこ』
モンゴル民話『スーホのしろいうま』
モンゴル生まれの楽器、馬頭琴の由来となった物語です。ある日、羊飼いのスーホはきれいな白馬に出会いました。彼らは強い絆で結ばれますが、ある出来事から理不尽にも引き裂かれてしまいます。
ラストが何ともせつなく、悔しさや喪失感など感情を激しく揺さぶられる絵本です。とてもインパクトがあり、子どものころに泣きながら読んだ覚えのあるママも多いのではないでしょうか。
スーホと白馬の気持ちを想像しながら読むと、より深く胸に染み入るものがあります。子どもたちも成長するにつれ、悲しみの奥にあるものを読み取るようになるかもしれません。
・書籍名:モンゴル民話『スーホのしろいうま』
バージニア・リー・バートン『せいめいのれきし 改訂版』
「人間はどうして生まれたの?」「恐竜はどうして絶滅したの?」といった子どもの疑問に答えてくれる良書です。地球の成り立ちから始まり、人間が生まれるまでの壮大な生命のリレーが描かれています。
細部まで書き込まれたイラストの解説を担当するのは、左下にいるナレーターです。このナレーターを基準にして、描かれる植物や動物の大きさが想像できるようになっています。
子どもに限らず大人も楽しめる、家に置いておきたい1冊といえるでしょう。やや文章が長く難しい部分もあるため、最初は絵をメインにかいつまんで説明してあげる方がよいかもしれません。
・書籍名:バージニア・リー・バートン『せいめいのれきし 改訂版』
まとめ
ベストセラーになる絵本には、子どもへ伝えたいメッセージが詰まっています。そこからどのようなテーマを読み取るかは子ども次第ですが、良質な絵本から感じたことは成長の糧になるはずです。
読み聞かせの時間は、親子の親密さを深める時間にもなります。1週間に1回でも、月に1回でも構いません。ママが子どものころに経験した感動を、今度は子どもに与えてあげましょう。
もちろんベストセラーに限らず、子どもの反応が抜群によい作品もあります。絵本選びに慣れてきたら「うちの子のベスト絵本」を探して見るのも楽しみ方のひとつかもしれません。