●HIVに感染しても出産できる!
「’97年以降、日本では、抗HIV薬による治療法が始まり、保険が適用されるようになりました。ですから、もしも自分がHIVに感染したとわかっても、抗HIV薬を服薬し、ウイルスの量を下げて免疫を上げれば、エイズを発症しないですみます。今までと同じように働けるし、勉強もできる。結婚もできれば子どもを産むことだってできるのです。日本では、妊婦さんの感染の有無を検査し、感染していれば治療を始めます。こと出産に関して、子どもに感染する可能性が考えられるのは、出産時に子どもが母体の血液に触れた場合、または母乳を与えた場合です。帝王切開やあらかじめ抗HIV薬を服用するなど、子どもへの感染リスクを下げる方策をとることで、日本の母子感染の確率は0.5%以下になると報告されています」
HIVウィルスは一生ゼロにはならない、つまり完治はしないのだが、最近では、上手く付き合っていく“慢性疾患的なウイルス”になりつつある。
「それでも日本人にとっては、いまだHIV感染というのは他人事で、“自分に感染の可能性がある”と思っている人は極めて少ない。そのため検査も受けないので、発症してから感染がわかるという報告例が減りません。。せっかく発症をおさえる治療法が開発されたのに、それが生かされないことほどもったいないことはありませんよね」(池上氏 以下同)
この抗HIV治療法ができてからというもの、エイズを取り巻く環境はガラリと変わった。
「HIVは、感染しても症状が、自分ではなかなかわかりにくいもの。先にも挙げたように、発症して初めてわかるのが普通なんですね。だからこの治療法ができる前は、HIVに感染してもずっと気づかないままエイズ発症に至り、そのまま亡くなるというケースが多かった。治療法ができる’97年までは、HIV感染=エイズ発症=死というのが一般的でした。’97年以降、発症を抑える治療法ができてからは、状況が一変したんですね。“感染の可能性がある人(性病を予防しない人)は定期的に検査をした方がいいですよ”と言われ、今では医療機関でもがんなどと同じように、早期発見、早期治療という言葉が使われています」
抗HIV治療法ができたことは大変素晴らしいが、その前に、親として子どもたちに促すべきは、やはり“性の健康”を守るための予防だ。
「コンドームなどで守る性の健康は”自己責任”と言われますが、恋愛の真っ只中にいるときは、自分1人の決定で予防できるわけではありませんよね。予防や避妊も含め、2人とも性の健康管理が重要だと思わないと、予防行動はとれないものなのです。この難しさは、相手が同性だろうが異性だろうが同じ。難しいことではありますが、お互いの健康を守るためにも、しっかりと話し合い、ルールを作ることが大切なのです」
大学や就職で子どもが外の世界へと飛び出す前に、しっかりとしたHIVや性感染症、避妊や感染症予防について親子でしっかりと話し合うこと。それが苦手な親は、書籍や資料を使って、間接的に伝えることが必要。大切な子どもたちを感染症から守る手立ては、大人たちに託されている!
(取材・文/蓮池由美子)