【特集・スープ】広島、半世紀以上も地元で愛されてきたホルモンのスープ

【特集・スープ】広島、半世紀以上も地元で愛されてきたホルモンのスープ

この一杯を求めて、今日も地元の人々がこぞって通う。広島市西区で根強い人気を誇る、ホルモンのスープ「でんがく」は、まさにそんなスープです。どうしてそれほどまでに愛されているのでしょう? その理由を知りたくて、特にファンが多いという老舗を訪ねました

食べると元気が湧いてくる
働くひとのためのスープ

「でんがく」と呼ばれるホルモンスープが、これほど人々から愛されているとは、正直思っていませんでした。ホルモンを扱う店が多い広島市西区のエリアでいちばんの老舗『福本食堂』を訪ねると、一見客に最初に勧めるメニューはホルモン天ぷらではなく、でんがく。まわりの席を見回しても、でんがくだらけ。うどん入りでんがくも、ごはんや天ぷらと一緒に頼んだでんがくも、ほとんどの人がノンアルコールで、わしわしと胃の中へとおさめています。

「うちは昼の営業なので、お食事をされるお客さんがほとんど。特に、でんがく目当てでいらっしゃるお客さまが多いですね」。店の創業者である故アサコばあちゃんの孫、角田真奈美(すみたまなみ)さんは丁寧に教えてくれます。

でんがくと並ぶもうひとつの名物、ホルモン天ぷら。定番は牛の白肉(ミノ)やハチノス、センマイなど。好きなものを選んで自分でカットし、唐辛子入りの酢醤油で食べる。お勘定は自己申告制で、1 個120 円。テイクアウトも人気だ

スープが看板メニューになるのは珍しい。スープが好きで日本各地、世界各国でスープばかり食べている私は思うのです。確かに韓国料理にはスープをメインとする店も多くて、福本食堂の近くにも韓国食品を販売する店があるけれど、もともとこのあたりは韓国ルーツの人が住んでいたエリアというわけではないとのこと。何十年か前まで、道をはさんだ向こう側にあった食肉加工場から出たホルモンを利用することから始まったとはいうけれど、どうしてスープなのか。どうして、でんがくと呼ぶのか。謎は深まるばかり。

上/さまざまな部位のホルモンが煮込まれた、鍋一杯のでんがく。名前の由来は、みそ田楽のように煮込んだものをそう呼んだのでは…という説がある 下/気風のよい女性店員が店を切り盛りする。京子さん(右)と名物店員のサーシャさん

しかしながら、そんな疑問なんてどうでもよくなるほどのパンチ力が、このでんがくにはありました。口にするとしみじみと体に沁(し)み渡り、元気になって生き返る。スープにはそんな力が往々にしてありますが、このでんがくは特にすごい。問答無用で体中へと浸透して元気になる力にあふれているのです。

透明なスープにはきれいな脂が浮いていて、その上にはぶつ切りされた数種類のホルモンが山のよう。ほとんどが牛の部位で、うまみが脂となってしみだす小腸、コリコリとしたノドの軟骨、きめ細やかでぷにっとした食感のヤオギモと呼ばれる肺、センマイや広島でビチと呼ばれる豚の胃袋も入っています。どれを食べても、スープを飲んでも、肉のうまみとやさしい脂が感じられて、あっという間に平らげてしまいました。

原爆ドームとの距離は2km。終戦の2年後に福本食堂は誕生した

もちろん、手間なくしておいしいホルモンはありえません。「洗うて、茹でて、洗うて、切って、また洗うて。臭いをとるにはきれいに洗わにゃいかん」と教えてくれたのは、創業者アサコさんの娘、髙田京子(たかだきょうこ)さん。聞くと、京子さんが生まれる前から、このエリアの人たちはホルモンスープを食べて、でんがくと呼んでいたとのこと。商売として売り始めたのがアサコさんで、付近のネギ畑で働く人たちのため、鍋いっぱいに作ってリヤカーに乗せて売りに行ったのが始まりだったといいます。

上/こちらも名物。ホルモンを揚げて干した、せんじがら。写真は豚で、馬や牛が並ぶことも。800 円~ 下/創業は1947 年。店内には戦前から伝わる写真も

なるほどだからか。作り始めた当初から働く人たちの食べ物だったからこそ、福本食堂のでんがくはこんなにも体へと沁み渡り、力へと直結しているでしょう。原爆が投下されたときは別の仕事で生計を立てていたというアサコさん。戦争が終わって2年後にでんがくの販売を開始したときから、86歳で亡くなって数十年たった今にいたるまで、広島で生きる人たちに力を与え続けています。ああ、またすぐに食べに行って、元気になりたい。

福本食堂

ふくもとしょくどう 
TEL/082-232-7080
住所/広島県広島市西区小河内町1-20-8 
営業時間/10:00 ~16:45(持ち帰り~18:30)
定休日/日・祝


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