「カウンセラーをしていると、よく親御さんから“親として、子どもに話かけるとき、何を意識したらいいんでしょうか?”“言ってはいけない言葉はどんな言葉でしょうか?”などと、聞かれることも多いのですが、言えることは、答えはひとつではないということです。それぞれの親子の置かれた環境、親子の相性、子どもの性格など、本当にさまざまで千差万別ですからね。この言葉を言えば、言わなければという言葉があるなら、世のすべての親子がうまくいってますよね」
そう話すのは、臨床心理士の生田倫子先生。つまり、大事なことは、わが子の状況に応じて、その子に必要な言葉、その子が欲している言葉をかけることが正解で、“こうでなければならない”というマニュアルは存在しないのだ。
「親の既成概念や常識、正論で言葉をかけてしまうことは、ごく普通のことだと思います。しかし、人間関係がこじれるときというのは、時として“正論だと思うから言いすぎる”、“両方とも自分が正論だと思っているから終わらない”という事態により、悪循環が形成されていることが多いです。その悪循環から抜け出るためには、いったん正論を脇に置くということが必要なのですが、これが極めて難しいことなのです」(生田先生 以下同)
それを防ぐためには“観察の重要性”、つまり親の言葉に子どもがどう反応するかを、しっかり見極めることだと、生田先生は話します。
「子どもというのは、時として親の言葉から親が意図しないことを受け取っていたりするんです。親の言葉の子どもへの影響力が大きいからこそ、気をつけなければなりません。例えば、親御さんが言われてうれしいことが、わが子にとって嬉しいこととは限りません。ポジティブな言葉でも、受け取る子の状況や性格によっては、嫌味に聞こえたり、プレッシャーに感じたりするのです。逆に、親が言い過ぎてしまった…と思ったことが、まったく子どもにはダメージになっていなかったり、むしろ発奮するきっかけになったりすることも。つまり、相手を見ることなんです。1に観察、2に観察、3、4がなくて、5に言葉ですね」
しかし、“見ること”といってもじーっと親が子を監視するというのは子が息苦しいだけでもちろん逆効果。親子関係が悪循環にハマったときに冷静に対処することが大事だそう。
「長い人間関係ですから、思わず暴言を吐いてしまうこと、まずい言葉を言ってしまうこともあるでしょう。でも、いつもが温かく楽しい感じであれば、何も問題ありません。ただし、悪循環にハマってしまっときは、ちょっと一歩引いて冷静になって、子どもを観察してみる。この子は何を欲しているのか? 何に反応したのか? と。そして、今までとちょっと違った対応、言葉かけ、周りの人に相談するのもいいでしょう。その繰り返しです。くれぐれも、自分の思い込みだけで正論を浴びせて暴走しないように気をつけてください」
最後に生田先生は、こんなわかりやすい例で説明してくださいました。
「男女関係を思い出してみてください。気になる相手のことを寝ても覚めても考えすぎて、“あなたのため!”と一方的に暴走してしまうと、相手は去っていきますよね? 親子関係もそれと同じです(笑)」
親だから…、子だから…、ではなく、親子関係も、あくまでも人間関係だということを忘れてはいけませんね!
(構成・文/横田裕美子)