そもそも自傷とはなんなのか。自傷が悪化すると、自殺につながってしまうのか。こうした問いに対して、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科の碓井真史教授は言う。
「自傷には、自分の髪の毛を抜いてしまう、頭を壁にぶつける、爪を噛む子など、さまざまなものがあります。リストカットも自傷の一種ですが、多くの場合、リストカットは自殺未遂ではありません。今日死のうとしていたわけではないのです。しかし、同時に、リストカットをする人は自殺してしまう可能性が高いというのも事実です」(碓井先生 以下同)
また、「自傷行為」をする子には、いずれも原因が明確にある子もいれば、ない子もいるという。
「リストカットがほかの自傷行為と異なる点は、わざと見せることです。普通は秘密にするものなのに、何か気づいてほしい、気持ちを伝えたいという思いが根底にあるのです」
●繰り返されるリストカットに慣れてしまう危険性
では、子どものリストカットを見つけたら、親はどうしたら良いのだろうか。
「リストカットを見つけたら、親がやりがちなのは説教すること、泣くこと、怒鳴ること、大騒ぎすること。でも、正論や説教は心の健康な人には役立ちますが、追い詰められている人には意味がありません」
また、実際にリストカットする子の親は心配しない、慌てる様子が見られないケースも多いのだとか。
「リストカットする子は、その前にプチ家出など、いろいろなトラブルを起こしていることが多い。そのため、リストカットしているのに気づいても、『いつものことか』『大した問題じゃない』と、親はそれに慣れてしまうんです」
さらに、怖くて子どもと向き合えない親も多いそう。だが、子どもは声をかけられないと寂しさを感じ、次はもっと深くリストカットするなど、さらに悪化してしまうそうだ。
では、どうしたら?
「意味があるのは、心配してあげること。『どうしたの?』と聞いてあげて、『あなたのことが心配』『あなたがつらいと私も悲しい』と伝えましょう」
子どもの明るく元気で前向きなことには関心を持ち、褒めるものの、「良い話しか聞きたくない」親は案外いるそう。
「大切なのは、子どもの悲しい、悔しい、ネガティブな感情をいかに共有できるか。幼い頃から『悔しかったねー』『つらかったね』でヨシヨシしたり、ハグしてあげたりすると、子どもがネガティブなことにぶち当たったときの対処法がわかるようになります」
親子関係は何歳からでもやり直せると碓井先生は言う。子どもがつらいときこそ、気持ちに寄り添い、話に耳を傾けたいものだ。
(田幸和歌子+ノオト)