疲れた心と体に染み込む、ナイトキャップ(寝酒)代わりのエンタメをヒコロヒーが紹介。第8回は、アメリカ文学翻訳家で随筆家でもある藤本和子によるエッセイ集『イリノイ遠景近景』をお届け。
藤本和子/著『イリノイ遠景近景』
本作はアメリカ・イリノイ州のカントリーサイドに住む著者による、生活と観察の記録。近所の店での盗み聞きから、ナチスドイツ時代を生き延びたユダヤ人との会話まで、彼女が出会った多くの人々からの聞き取りがベースになっている。イリノイ州といえば、アメリカ中西部の中でも民族構成の多様化が著しい地域。著者自身もここでは移民だが、本作には雑多な人々が登場する。
私が興味を持ったのは、女性ホームレスのための緊急シェルターで手伝いをする日々を記した章。アフリカ系アメリカ人が多く住む地域にある施設で、入所者も麻薬依存者や元放火犯などさまざま。入所者のボーイフレンド(元殺人犯)が脅しに来たりとトラブル続きなのだが、あまりに淡々と書かれているので滑稽にさえ思えてくる。きっと彼女にとってはただの日常なのだろう。ほかにも中国のスパイが家に夕食を食べに来る(!)話などもあったが、どんだけエピソードトーク強いねん!
これだけのエピソードをお持ちということは、著者は相当コミュニケーション能力が高い人なのだと思う。そう言うと明るく饒舌な人として褒めているようだが、私が言いたいのはそういうことではない。きっと本当のそれは、相手に興味を持ち、相手の気持ちを考えながら話を聞く力のこと。私もいろんな声に耳を澄ましてみたくなったのだった。
text : Daisuke Watanuki
ヒコロヒー
世界観やセリフで魅せるコントで活躍するピン芸人。松竹芸能所属。テレビ朝日系『キョコロヒー』等に出演中。Instagram:@hiccorohee
No. 1215
料理が好きになるレシピ85。/髙橋海人 (King & Prince)2022年11月28日 発売号 忙しい毎日の中で、自炊するのは大変なこと。でも「食べる」ことからは逃れられないからこそ、ラクに、少しでも美味しくできれば、心の重荷が減って、あなたの料理の時間が、ちょっと楽しいものになるかも。今号で料理のプロ&料理上手の方々から聞いたのは、彼らが肩ひじ張らないときに作りたい、つまり“いつもの”レシピです。あなたの毎日をちょっと楽しく健やかにしてくれる、そんなきっかけをこの一冊で見つけてみませんか。 試し読み
配信: Hanako.tokyo
関連記事: