現住建造物等放火罪とは?極めて重い刑罰を軽くする方法も解説

現住建造物等放火罪とは?極めて重い刑罰を軽くする方法も解説

3、現住建造物等放火罪は未遂でも有罪?

では、現住建造物等放火罪が未遂となった場合、有罪となるのでしょうか?未遂の場合でも処罰されるのか、既遂の場合と比べて減軽される可能性はあるのかについて見ていきましょう。

(1)未遂でも処罰される

現住建造物等放火罪は未遂でも処罰されます(刑法第112条1項)。

現住建造物等放火罪はそれ自体危険性が高い抽象的危険犯であるため、実際に焼損しなくても処罰されるのです。

たとえば、家屋を燃やそうと考え家屋の近くにあった古紙に火をつけたものの、古紙が燃えただけで家屋に火が燃え移らず焼損するに至らなかった場合は未遂にとどまるでしょう。

(2)未遂なら減軽される可能性はある

未遂でも処罰されますが、結果は発生していないことから未遂の場合は減軽される可能性があります。

ただし、未遂の場合でも死刑または無期もしくは5年以上の懲役という刑罰が適用されることに加え、減軽されるかどうかは裁判所の裁量に委ねられているので、必ず減軽されるわけではありません。

(3)いつ既遂となるのか  

現住建造物等放火罪が既遂となる時期については諸説ありますが、判例・通説では、火が媒介物を離れて目的物に燃え移り、目的物が独立して燃焼を継続しうる状態に達したときに既遂に達すると考えられています。

そのため、たとえ目的物の一部しか燃えていない段階でも、放置すれば燃える状態に達していれば既遂となります。

裁判例では、マンションのエレベーターに火を放つことで、エレベーターの側壁の化粧鋼板0.3平方メートルが燃焼した事案では、燃焼した範囲は小さいものの「焼損」に至ったと認められ、現住建造物等放火罪の成立を認めた事例があります(最高裁決定平成元年7月7日)。

4、「放火殺人」とは?現住建造物等放火罪と殺人罪との関係について

放火することはそれ自体、人の命を奪う危険性を有する行為であり、実際に人の命が奪われることがあります。

中には初めから人を殺す目的で放火する人もいるでしょう。

ここからは、放火によって人が死亡した場合の現住建造物等放火罪と殺人罪との関係について見ていきます。

(1)「放火殺人罪」という罪名はない

放火によって人が死亡した場合、放火したことと人を殺したことを1つの罪で処罰できるような「放火殺人罪」という罪は存在しません。

この場合、放火罪と殺人罪(場合によっては過失致死罪)の2つの罪がそれぞれ成立し、両者の関係が問題となります。

(2)放火によって人が死亡した場合の具体的な罪名

それでは、放火によって人が死亡した場合、どのような罪が成立するのか、刑罰はどうなるのかを具体的に確認していきましょう。

①家屋の中にいる人を殺すつもりで放火し、死亡した場合

この場合、1つの行為が現住建造物等放火罪と殺人罪の2つに触れるケースですので、両罪が成立し、観念的競合の関係になります。

観念的競合となった場合は「最も重い刑により処断する」(刑法第54条1項)こととなっていますが、現住建造物等放火罪と殺人罪の刑罰は同じなので、刑罰は死刑又は無期若しくは5年以上の懲役となります。

ただし、現住建造物等放火罪のみのケースや、殺人罪のみのケースよりも重大な結果が乗じていますので、刑事裁判における量刑は厳しくなる傾向にあります。

②家屋の中で人を殺した後、証拠隠滅のために放火した場合

この場合、人を殺す行為と証拠隠滅のための放火行為は別個の行為です。そのため、殺人罪と現住建造物等放火罪の2つが成立し、両者は併合罪となります(刑法第45条)。

併合罪の場合、懲役刑または禁錮刑を科すときは罪が重い方の刑期の1.5倍となりますが(刑法第47条)、併合罪のうち一個の罪について死刑または無期懲役に処するときは、他の刑を科さないこととされています(刑法第46条)。

現住建造物等放火罪と殺人罪の刑罰は死刑又は無期若しくは5年以上の懲役ですので、法定刑の上限は死刑であり、有期懲役が科せられる場合には上限が7年6ヶ月となります。

③家人が不在だと思って家屋に放火したが、実は中に人がいて死亡した場合

家人が不在だと思っても、家屋であることを認識していたのであれば、現に人が住居に使用している家屋への放火行為になるので現住建造物等放火罪が成立します。

これに対し、中に人がいることを認識していなかったのであれば殺人の故意があるとはいえませんので殺人罪は成立せず、過失致死罪が成立します。

現住建造物等放火罪と過失致死罪とは観念的競合の関係となり、重い方の現住建造物等放火罪の法定刑で処罰されることになります。

ただし、先ほどもご説明しましたが、逮捕されると殺人罪の「未必の故意」について厳しく追及されます。未必の故意が認められると、上記①と同様に現住建造物等放火罪と殺人罪との観念的競合となります。

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