●財布をのぞいたら1万円札がない!
「娘は私立の女子校に通う高校一年生。成績も良く、友人関係もうまくいっていて、それまでは何の問題もありませんでした。お小遣いも、月に5000円は渡していましたし、ディズニーランドなどに遊びに行くときは、お小遣いとは別に必要なお金を渡していたんです。なのに娘がなぜこんなことをしたのか…悲しくてしかたがありません」
都内のお受験激戦区に住むAさんは涙ながらにこう語る。Aさんの娘・Bちゃんは、バスケ部に入っていて、性格も明るく活動的。Aさんの財布のなかのお金がなくなるようになったのは、Bちゃんが高校に入ってすぐのことだったという。
「新聞代を払おうとしたら、銀行で下したはずの1万円札がないんです。夕方下ろしたばかりでしたし、記憶もはっきりしていたのですが、その時はまさか娘が盗んでいるとは思いませんでした。“どこかに落としたのかな?”と自分を疑いましたが、ひょっとして…という気持ちがあったのも事実です。その翌日も、お風呂から出て何となく財布の中身を確認すると、1万円札を抜かれていました」(Aさん 以下同)
証拠もないし、どう対処したらいいのか…とても悩んだというAさんだが、やはり娘に裏切られたという怒りに勝てず、Bちゃんを問いただしてしまったという。
「あっさり認めて泣いて謝ることを想像していたんですけど、娘は絶対に認めませんでした。私が“お風呂に入っている間に1万円がなくなっているなんておかしいな~。昨日もなくなっていたし…”と切り出したら、娘はあわてて“絶対に私じゃない”と言い張り、勉強していたノートを床に投げつけたんです。いくら問いただしても、泣きながら“私じゃない”と言う。しかたがないので、それ以降、部屋を開ける時は、お財布を隠すようにしていました。罪を認めないまでも、心ではきっと反省しているはず。もうやらないだろうと考えていたのです」
そんななか、さらなる悲劇がAさんを襲う。
「今度は主人の財布から、2回も1万円がなくなっていたんです。あれだけ問いただしたにも関わらず…。わが子ながら、娘の行動にゾッとしました。私の子育ては間違っていたのか…そう自分を責めました。私は完全にお手上げだったので、主人に冷静に話してもらうと、娘は泣きながら、やっと罪を認めました。“気づかないと思った”と泣きじゃくる娘に、“なんでそんなにお金がほしかったの?”と聞くと、友だちが、みんなブランドのバッグや財布を持っているから、自分もそれが欲しかったというのです。“渋谷や原宿で遊ぶお金もほしかった、月に5000円では何も買えないし、何もできない”と。娘の気持ちもわからないでもないし、主人とどうしようか話し合いましたが、主人は結局、娘に高級ブランドのバッグを買い与えてしまいました。“ほしいものがあれば、その都度考えるし、怒らないから正直に話すように…”と。甘いな~とも思いましたが、この事件を機に、娘はほしいものがあれば私に話してくれるようになりましたし、お財布の中身が減るようなことも起きなくなりました」
この実録を受けて、心理カウンセラーの三枝みき氏はこう語る。
「子どもが財布からお金を抜いているとわかったら、お父さんとお母さんはショックですよね。でも、どうかあわてないでください。根っから悪い子は絶対にいません。お子さんを信じてあげて下さい。何かその子なりの理由が必ずあるはずです。話をよく聴いてあげて、悪いことは悪いと諭す、でも反省したのなら過剰に責めないで、許してあげる、そして抱きしめてあげることも大切です」(三枝氏)
まずは怒らず冷静に、「なぜそうなってしまったのか…」理由を聞いてあげること。子どもがお金を盗る背景には、必ず何かしらの原因があることを親はしっかりと把握しておこう。感情だけで怒鳴り飛ばしたところで、根本的な問題は、決して解決されないのだ。
(取材/文・ワタベマキ)