ジャニーズファンが避けてきた「ジャニー氏の性加害」問題――研究者に“向き合い方”を聞いた


ジャニーズ事務所はどのような対応をするのか(C)サイゾーウーマン

ジェンダーや人権をテーマに取材をするライター・雪代すみれさんが、アイドルに関する“モヤモヤ”を専門家にぶつける連載「アイドルオタクのモヤモヤ」。今回のテーマは、「ジャニー喜多川氏の性加害報道をジャニーズファンとしてどう受け止めるか」です。

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 今年3月、BBC(イギリスの公共放送局)がジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏の性虐待問題を追及・告発するドキュメント番組『Predator:The Secret Scandal of J-Pop(邦題:J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル)』を放送。その後、4月には、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんが日本外国特派員協会にて記者会見を行い、ジャニー氏から性被害を受けていたことを打ち明けた。

 会見を受けて「ジャニーズ事務所は説明責任を果たすべき」といった批判が噴出する一方で、「まったく知らなかった」「うわさ話として聞いたことはあったけれど、詳しくはわかっていなかった」「性暴力は許せない、でも推しを嫌いにはなれない」などジャニーズファンからは戸惑いの声も見られる。

 自身もジャニーズファンであり、男性ジャニーズファンの研究をしている東京工業大学大学院博士後期課程の小埜功貴さんに、ジャニー喜多川氏の性加害報道をどう捉えているか話を聞いた。

ジャニー氏の性加害のことを知って、オーディションを辞退した

――ジャニー氏の性加害は、1999年の「週刊文春」(文藝春秋)が大々的に報じ、それ以外にも元ジャニーズタレントが告発本を出ていましたが、10代の若いジャニーズファンの中には、それらをまったく知らなかった人もいるようです。小埜さんは1996年生まれとのことですが、いつ知りましたか。

小埜功貴さん(以下、小埜) 実は、ジャニーズ事務所に入りたいと思ったことがあって、中学3年生のとき、オーディションに応募したんですね。書類選考の結果を待っている間に、もし入所することになった場合のことを考え、もう少しジャニーズ事務所がどういう場所なのかきちんと知っておかないといけないなと、ネットでいろいろと調べていて。その中で99年の「週刊文春」の報道や、その後の裁判のこと(※)、また告発本のことを知りました。

※1999年に「週刊文春」(文藝春秋)がジャニー氏の性加害問題を14週にわたり報道し、ジャニー氏及びジャニーズ事務所は文藝春秋を提訴。1審・東京地裁では文藝春秋が敗訴、2審・東京高裁ではジャニー氏の性的虐待の事実が認められた。ジャニーズ側は最高裁に上告したが、2004年2月に上告棄却され、高裁の事実認定が確定している。

※参照:文春オンライン(2023年3月8日)

 知ってはいけないことを知ってしまったような感覚や、裏切られたようなショックを受けて……。結果、書類選考は受かったのですが、そのことを知ってから怖くなってしまい、それ以降の審査は辞退しました。

 カウアンさんが記者会見の際に「一連の被害について、当時(「週刊文春」が報じた頃)大手メディアが報じていたら、入所をためらうなど選択は変わったと思いますか?」と聞かれていましたが、当時の彼は知らなかった一方で、まさに僕は知った側だったので、途中で審査を受けるのをやめました。

――「すごくショックを受けた」とのことですが、ジャニーズファンをやめようとまでは思わなかったのでしょうか。

小埜 その情報自体にはショックを受けましたが、当時、ネットで調べられることは限られていましたし、まだ中3だったので、具体的にどういうことなのかまで理解はできなかったんです。

 それに、デビュー組のメンバーたちがジャニーさんへの感謝や、面白エピソードを語る姿もたくさん見てきたのもあって、混乱しながらも、アイドルの存在まで嫌いになることはなかったですし、テレビや新聞の報道で見かけることがなかったので、当時10代の頃の自分の中で、だんだんと風化していったような感じでした。

――小埜さんはBBCの報道やカウアンさんの記者会見を、どのように受け止めていますか。

小埜 「ジャニ―氏が行っていたことはグルーミング(大人が性的な目的のため、子どもを手なずけること)ではないか」という指摘がありますよね。グルーミングにおいて、被害者が加害者に対して敬意や好意を抱くことがあることも、知識として知ってはいます。一方で、特にデビューを果たしたアイドルたちがジャニー氏への尊敬の言葉を発しているのも事実です。一連の報道で取り上げられた彼の性加害についての事実と、彼らが抱いてきたジャニー氏への想いをどう並立させて、折り合いをつけるべきか、今でも混乱している部分があるのが正直なところです。

 日本では男性の性暴力被害者の声を受け止める土台がまだ、制度の面でも性規範の面でも不十分ですし、まして今回の件はジャニーズというとてつもなく影響力の大きい組織に関わる事案であり、そして加害者/被害者が同性間であることから、これまでに類似した前例もないため、どう受け止めていいか戸惑っている人もいると思います。ただ、ジャニー氏の性的指向(どの性別の人に恋愛的な魅力を感じるか)と、性暴力の問題は別々で考えるべきだと私は考えています。

――ジャニーズファンの中には「推しが被害に遭っていたと思いたくない」「この気持ちをどう処理していいかわからない」など複雑な思いから、推し活を楽しめなくなってしまった人もいるようです。

小埜 BBCの報道やカウアンさんの記者会見があるまで、多くのファンは「知らないふり」をするとか、「うわさだろう」と思い込むようにして避けてきた話題だと思います。でもそういう態度はもう通用しなくなったのではないでしょうか。

 ただ、カウアンさんが会見で「ジャニーズファンへのメッセージを」と問われて「自分の好きなアイドルやタレントの応援を続けるのはいいんですけど、そういうこと(性暴力)も事実としてあるので、そこから目を背けるのではなくて、事実としてあることは理解したうえで、リスペクトして応援するのがいいと思います」と話していたように、性暴力の事実があったとしても、アイドルから元気をもらっていたことも事実ですし、今もそうであるならば、その愛は持ち続けてもいいと思っています。

 でも、当時10代の頃の僕のように、性暴力のことを風化してしまうのはダメですよね。この問題が忘れ去られて「なかったこと」にされるのは絶対に良くない。ファンとしては、事務所に対して誠実な対応を求め続けることが、推しを守ることになるのではないでしょうか。性暴力問題に向き合うことと、推しを応援することは両立できると思うので、ファン同士でもきちんと言葉にして考えていきたいです。

 報道や記者会見を見て、推し活を続けることについてファンから葛藤が聞こえてくることもあります。エンターテインメントとしてファンが純粋に楽しく推し活ができるように、ジャニーズ事務所にはこの問題に、表面的ではなく、これまで被害を心に抱え続けてきた方々はもちろん、今回の報道に怒りや悲しみをもった人たちが納得する形で、真摯に向き合ってほしいと思います。

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料理や収納など暮らしに関する情報や、芸能、海外ゴシップの最新ニュースを連日発信中。ほかにも、皇室や女子刑務所のウラ話、万引きGメンの現場レポなど、個性豊かなコラムも展開。ほかとは異なる切り口で、女性の好奇心を刺激する記事をお届けします。
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