3、誤認逮捕の実例
ここからは、誤認逮捕が引き起こされた事例を紹介します。
(1)四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事件
四日市市のショッピングセンター内にあるATMコーナーで、68歳の男性が女性の財布を窃取した疑いをかけられてもみ合いになり、その場に居合わせた店員・客ら3人に取り押さえられて現行犯逮捕され、身柄が警察官に引き渡された後に死亡した事例です。
男性の死亡後、ATMの監視カメラには男性が財布を盗んだ様子は一切記録されておらず、また、被害を訴えた女性と奪い合っていた財布は男性のものであることが判明しました。女性は現場から立ち去ってしまい、発見されていません。
当初被害を主張した女性の一方的な申告によって誤認逮捕が引き起こされた事例と言えるでしょう。
(2)パソコン遠隔操作事件
真犯人が、インターネットサイト経由で複数人のパソコンにマルウェアを送り込み、4人のパソコンを遠隔操作して襲撃・殺人などの犯罪予告を行った事件です。
遠隔操作をされた4人が誤認逮捕された後に真犯人の存在が明るみに出て4人の無実が判明したために、2人が不起訴処分、1人が起訴処分の取消し、残りの1人が保護観察処分の取消しとなりました。
誤認逮捕の原因になったのが捜査機関による自白強要と虚偽の供述書作成です。
「犯行を認めれば罪が軽くなる」などの利益誘導や、犯行を立証するには不自然な事実を隠蔽するなどの問題点が明るみになり、違法な捜査活動に対する厳しい世論が形成されるに至りました。
(3)覚せい剤所持の疑いで誤認逮捕した事例
「高速道路上を歩いている男性がいる」という110番通報によって警察官が現場に赴いたところ、当該男性が「乗用車がガス欠で停車した」という事情を説明しました。
警察官が車内を調べたところ、ビニール袋に入った白い結晶粉末が発見され、簡易試験で覚せい剤であることが判明したとして、現行犯逮捕したという事例です。
しかし、後日に本鑑定した結果、覚せい剤でないことが明らかになり、男性の尿検査結果も陰性であったことから、誤認逮捕であったとして身柄が釈放されています。
簡易試験の間違いが原因で引き起こされた誤認逮捕事例と言えるでしょう。
参照:
4、誤認逮捕されたらどうなる?
以上のように、「誤認逮捕は絶対に起こらない」というわけでもありません。
それでは、誤認逮捕されたらどうなるかを具体的に理解しておきましょう。
(1)誤認逮捕が判明するまで身柄を拘束される
犯人ではないのに逮捕されてしまった場合でも、嫌疑が晴れて誤認逮捕であったことが明らかとなるまでは刑事事件としての手続きが進んでいきます。
まず、逮捕されると身柄が拘束されて、警察にて取り調べを受けます(48時間以内)。
それから検察官に送致されて検察官の取り調べを受け(24時間以内)、さらに身柄を拘束して取り調べる必要がある場合には、10日から最大20日間にわたり、身柄拘束が続くこともあります。
捜査機関に身柄拘束されている間は、学校や会社に通えないだけではなく、自宅に戻るどころか、外部と自由に連絡を取ることも難しくなります。
なお、逮捕後の捜査活動において別の証拠が発見されたり真犯人が判明したりするなどして誤認逮捕であったことが明らかになると、その時点で逮捕・勾留の根拠がなくなるので、速やかに釈放されます。
(2)無実の罪で有罪判決を受けることもある
誤認逮捕であることが明らかとならない場合には、そのまま刑事手続きが進んでしまい、検察官によって起訴されると、刑事裁判が開始されます。
そして、刑事裁判における証拠調べ手続き・弁論手続きでも検察側の提出する証拠が採用されると、本当は無実であるにもかかわらず有罪判決が下される危険性も否定できません。前述の通り、いわゆる冤罪事件となります。
(3)判決前に釈放されると前科はつかない
刑事裁判で有罪判決が確定する前に誤認逮捕であることが判明すれば前科はつきません。
ただし、日本では、有罪判決を受けた段階ではなく、逮捕された段階で大々的なニュースになる傾向が強いので、後から誤認逮捕であることが判明したとしても、インターネット上に氏名や逮捕された事実が残り続けるおそれがあります。
そのため、就職・転職・結婚などの機会に不利になるリスクに晒され続ける可能性が残ります。
配信: LEGAL MALL