7、無期懲役か死刑かの判断基準
無期懲役が言い渡される事件は凶悪かつ重大なものばかりであり、死刑が選択されてもおかしくない事案も少なくありません。そこで、無期懲役か死刑かの判断基準をご紹介します。
両者の判断基準は法律で明確に定められているわけではありませんが、裁判例では以下の要素が考慮されています。
(1)結果の重大性
最も重視されるのは、結果の重大性です。特に、殺害された被害者の人数が重視されます。
絶対的な基準ではありませんが、殺害された被害者が1人だけのケースでは死刑となる可能性は低く、被害者の人数が増えれば増えるほど死刑となる可能性が高まる傾向にあります。
殺害された被害者が4人以上になると、ほとんどのケースで死刑が選択されています。
(2)犯行の態様など
もちろん、被害者の人数だけで無期懲役か死刑かが決まるわけではありません。
犯行の残虐性や悪質性、その他にも犯行の動機や計画性の有無、遺族の処罰感情、事件が社会に与えた影響の重大性なども考慮されます。
これらの内容によっては、被害者が1人であっても死刑となるケースもありますし、逆に、2~3人の被害者が発生していても無期懲役にとどまっているケースもあります。
(3)更生の可能性
無期懲役と死刑のどちらを選択してもおかしくない事案では、被告人に更生の可能性があるかどうかが重視されます。
被告の人の生育歴や事件前の境遇、反省の程度、前科の有無や内容などを考慮し、もはや更生の余地がないと判断されると、死刑の方向に傾きます。更生の可能性が認められる場合には、無期懲役となる可能性が高まります。
無期懲役と終身刑の違いに関するQ&A
Q1.無期懲役とは
無期懲役とは、無期限、つまり期限を決めずに懲役を科す刑罰のことです。
これに対して、期限を決めて科せられる懲役刑のことを有期懲役といいます。
例えば、「懲役5年」と期限を決められた場合、5年が経過すれば懲役刑の執行が終了し、対象者は釈放されます。
無期懲役の場合、対象者が死亡するまで懲役刑が続くということになります。
もっとも、日本の無期懲役には仮釈放が認められています。無期懲役の受刑者でも、仮釈放が許可されると出所して社会内で生活することが認められます。
Q2.終身刑とは
終身刑とは、終身、つまり対象者が死ぬまで刑務所に収容する刑罰のことです。期限を決めないのではなく、「死ぬまで」という期限を決めて言い渡されるのが終身刑です。
そして、終身刑には仮釈放の可能性がない「絶対的終身刑」があります。絶対的終身刑の受刑者は死ぬまで出所できる可能性がないという点で、日本の無期懲役とは大きく異なります。
ただし、終身刑を採用している国の中には、仮釈放の可能性がある「相対的終身刑」を採用しているところも多くあります。
相対的終身刑と日本の無期懲役は、期限を決めるのか決めないのかで表現の違いはあるものの、実質的には同様の刑罰であると考えて差し支えありません。
Q3.無期懲役にあって終身刑にはない「仮釈放」とは?
日本の無期懲役には、絶対的終身刑にはない「仮釈放」が認められているという大きな特徴があります。
仮釈放とは、刑期が満了する前に一定の条件を満たす受刑者について、仮に出所することを認める制度のことです。
有期懲役の場合は、仮釈放中に問題を起こさなければ残りの刑期が免除されます。
無期懲役の受刑者にも、条件を満たせば仮釈放が認められます。
ただし、無期懲役の場合は生涯にわたって懲役刑が続きますので、問題を起こすことなく過ごしていても一生涯、「仮に」出所している状態となります。
無期懲役の場合、法律上は次の3つの条件を満たせば仮釈放が許可されます。
刑の執行開始から10年が経過していること(刑法28条)
受刑者に改悛の情があること(刑法28条)
社会感情がその受刑者の仮釈放を是認するであろうこと(犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則28条)
しかし、法律上は10年で仮釈放が可能であっても、後で詳述する通り簡単には許可されていないのが実情です。
まとめ
無期懲役と終身刑の違いは、懲役刑が期限を決めずに科せられるか、「死ぬまで」と期限を決めて科せられるか、という点にあります。
実質的な違いとしては、無期懲役では仮釈放で出所できる可能性があるのに対して、(絶対的)終身刑ではその可能性すらないということが挙げられます。
日本には終身刑はありませんが、無期懲役からの仮釈放が認められる確率は低く、無期懲役が事実上の終身刑とも言われているのが実情です。
もし、ご家族や身近な方が無期懲役が規定されているような重大な犯罪をしてしまった、またはその疑いをかけられたときは、刑事弁護の実績が豊富な弁護士にすぐご相談されることをおすすめします。
監修者:萩原 達也弁護士
ベリーベスト法律事務所、代表弁護士の萩原 達也です。
国内最大級の拠点数を誇り、クオリティーの高いリーガルサービスを、日本全国津々浦々にて提供することをモットーにしています。
また、所属する中国、アメリカをはじめとする海外の弁護士資格保有者や、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも当事務所の大きな特徴です。
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