●3歳までに、土台となる“基本的信頼感”を育むことが大事
「まず、人生の最初である3歳くらいまでの幼児期は、人間の土台を作る本当に大事な時期であることは間違いありません。なぜなら、この時期に日々の生活のなかで“基本的信頼感”を育ててあげることがとても重要だからです」(親野先生 以下同)
基本的信頼感とは、自分に対する信頼感と、他者・自分をとりまく世界に対する信頼感の二つだという。
「自分に対する信頼感とは、母親をはじめ他者からスキンシップを受けたり、話しかけられたり、自分がしたことに反応してくれたり…。こういったことによって“自分は大切にされている、愛されている、存在していいんだ”という信頼感が持てるのです。もうひとつの他者への信頼感とは、母親、父親、祖父母、保育士…など、自分をとりまく世界に受け入れてもらっているという安心感です。つまり、この基本的信頼感が持てれば、自分も他者も大切にしながら、人生に夢を持って前向きに生きていけるわけです」
では、その土台を作るのは母親でなければならないのだろうか?
「もちろん、お母さんが子どもとずっと一緒に居てもイライラせず幸せを感じ、愛情をたっぷり注げるということは理想ですし、そういう人もいます。しかし、いろいろな理由でストレスを溜め込んだ母親が、そのストレスを子どもにぶつけたりイライラして叱ったりなど、わが子に適切な愛情を注げないケースも少なくないのです」
そうなると、むしろ“3歳児神話”に従って“母親とずっと一緒に過ごす”ことが、逆に子どもの成長に悪影響を及ぼしかねないという。
「お母さんとしては、“愛があるから叱る、この子のために叱る”と、言うかもしれませんが、これはまだ未熟な幼児には通用しません。愛情が実感できないからです。“自分は大切に思われていない、価値がない、居ないほうがいいんだ…”と思うようになり、自分に対する不信感を持つようになります。それと同時に、他者は自分を攻撃してくる、自分を取り巻く世界は恐ろしい、自分の身は自分で守らなければと思うようになるのです。このふたつが“基本的不信感”で、それを持ってしまうと、自分も他者も信頼できないので、夢に向かってがんばる力も出ませんし、他者に対しても不信に満ちた対応をし、攻撃的な言動にエスカレートする恐れもあるのです」
このように、イライラしている大人につきっきりで育てられることは、子どもにとって最大の悲劇であり、“3歳児神話”が虐待の温床になっているゆえんだと、親野先生は話します。
「つまり、そうなるくらいなら、誰かにサポートをお願いしたり、仕事を始めたりするなどして、子どもと少し離れる時間を持つことは、むしろよいことなのです。息抜きをしてリフレッシュすれば心が安定し、子どもに愛情深く接することもできます。何より大事なことは、母親が一緒に居ることにこだわらず、子どもが心から安心して愛されているということを実感できる環境づくりをし、生きるためのしっかりした土台を作ってやることなのです」
子どもにとって幼児期の子育てが大事なことはまぎれもない事実。しかし、母子をとりまく環境は様々。そこは、それぞれの母子に合う環境作りをしっかり模索することが大事ですね!
(構成・文/横田裕美子)