3、養育費の強制執行を止めるためにやるべきこと
養育費の不払いで給料差し押さえが長期間にわたって続きそうな場合、何とか強制執行を止めたいと考えることでしょう。
しかし、強制執行は債権者による正当な権利行使ですので、残念ながらストップさせることが可能な法的手段はありません。
一応、請求異議(民事執行法第35条1項)や執行取消しの申立(民事執行法第153条2項)という手続きもありますが、養育費不払いの事案で認められるとは考えがたいのが実情です。
そこで、養育費の強制執行を止めるためには、以下のような対処が必要となります。
(1)未払い分を完済する
最も確実な方法は、未払い分を支払ってしまうことです。
未払い分を完済し、その後も取り決めの内容どおりに養育費を支払うのであれば、給料が差し押さえられることはなくなります。
強制執行の原因となった未払い債務は、法律上の支払い義務が確定したものです。できる限り早めに完済した方が得策です。
(2)相手と話し合う
すぐに未払いを解消できない場合には、相手と話し合って強制執行の申し立てを取り下げてもらう必要があります。
ただ、相手も手間とコストをかけて強制執行を申し立てているのですから、単に「取り下げてほしい」と要望したところで簡単に応じてもらえるものではありません。
まずは、これまでの不払いについて謝罪をすることが大切です。
その上で、給料差し押さえが続くと職場にいづらくなり、退職に追い込まれるおそれがあること、そうなると養育費の支払いがなおさら厳しくなることなどを具体的に説明する必要があるでしょう
当然のことですが、今後は心を入れ替えて養育費を支払う旨を誓うことも必要です。
(3)養育費減額請求調停を申し立てる
以前に取り決めた養育費の金額では支払いが難しい場合で、相手との話し合いがスムーズに進まないときには、養育費減額請求調停を申し立てるという方法があります。
家庭裁判所で調停委員を交えて話し合うことで、妥当な金額にまで減額してもらえる可能性があります。
調停を成立させるためには、現在の生活状況や経済状況を具体的に伝えて、調停委員を味方につけることがポイントです。
そうすれば、調停委員が相手に対して助言や説得を交えて、合意を促してくれることが期待できます。
調停がまとまらない場合には審判手続きに移行し、裁判所が妥当な養育費の金額を決めます。
調停または審判で養育費の減額が認められた後は、その金額を滞りなく払っていけば、給料を差し押さえられることはなくなります。
ただし、調停を申し立ててから解決に至るまでには少なくとも数ヶ月はかかります。
半年以上の期間を要することも少なくありません。その間、給料差し押さえが止まらないことは覚悟しておく必要があります。
いったん強制執行をされると、途中で止めることは極めて難しいのが実情です。
今後は、強制執行をされる前に、相手との話し合いや調停などによって早めの解決を心がけましょう。
4、養育費が高すぎる、払いたくないと感じる人が知っておくべきこと
養育費の金額が妥当なものであったとしても、支払う側にとっては金額が高すぎると感じることもあるでしょう。子どもと一緒に暮らせない、なかなか会うこともできない、といった状況であれば、払いたくないと感じることにも無理はないのかもしれません。
しかし、養育費の支払いは法律上の義務です(民法第766条1項、2項)。支払わずに放置することは得策ではありません。
ここでは、養育費の支払いに納得できない方に知っておいていただきたいことをお伝えします。
(1)養育費の相場
両親の間で合意ができれば、養育費の金額は自由に決められます。
ただ、一般的には裁判所が公表している養育費算定表を参照して決めることが多いです。家庭裁判所の調停や審判、離婚訴訟では、基本的に養育費算定表の基準の範囲内で金額が定められます。
養育費算定表は、裁判官たちの長年の研究により、子どもの年齢と人数、両親の年収に応じて、相当と考えられる金額がまとめられたものです。最も信頼できる公的な資料ですので、養育費の相場として機能しています。
一例として、非親権者の年収が500万円(給与所得)、親権者の年収が150万円(給与所得)で、14歳以下の子どもが一人いるケースでは、1ヶ月当たりの養育費の相場は4万円~6万円とされています。
養育費算定表はこちらからご覧いただけますので、ご自身のケースに該当する表を見つけて相場を確認してみましょう。
参考:裁判所|平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
(2)養育費は子どものための大切なお金
養育費は、未成熟の子どもを健やかに育てていくために必要なお金です。元配偶者を援助するためのお金ではなく、子どものための大切なお金なのです。
夫婦が離婚し、元配偶者が子どもの親権者になったとしても、あなたと子どもとの縁は一生切れません。子どもが成熟するまでは経済的に養っていく義務と責任があります。
それに、たとえ両親が憎しみ合って離婚したとしても、子どもには何の非もありません。子どもは、あなたの経済力を必要としています。
誠意をもって養育費の支払いを続けていれば、子どもが大人になってから感謝するケースが数多くあります。
一緒には暮らせなくても、大人になってから円満な親子として交流できる可能性も十分にあるのです。
それに対して、養育費を支払わず子どもに苦労をかければ、大人になってからも相手にされなくなるおそれがあります。
必ず、ご自身の経済力に応じた適切な金額の養育費を支払うようにしましょう。
(3)元妻のお金の使い途に納得できないときは
もっとも、現実には養育費を子どもに直接渡すわけではなく、元配偶者に渡すことになります。
そして、元配偶者が浪費するなどして、子どものために養育費が十分に活用されていないといったケースもないわけではありません。これでは、支払う側としても納得できないことでしょう。
そんなときは、毎月、あるいは定期的に、養育費の使途明細を報告するように交渉することも考えられます。
もし、元配偶者が養育費を浪費していることが明らかとなれば、今後の減額請求の証拠として利用できる可能性もあります。
配信: LEGAL MALL