親が児童虐待で逮捕された場合、子供はどうなるのでしょうか。
日本では児童虐待の相談件数が約20万件(令和3年度)で過去最多になります。
家庭内での児童虐待で苦しむ方々が少なくありません。子どもとパートナー、大切な二人の狭間にいるとしたら、こんなに辛いことはないでしょう。
この問題の深刻さを物語る統計データとして、児童虐待による死亡者数は年間78人(令和3年度)にも達します。1週間に1人以上が亡くなっていることになります。
虐待をやめさせたくても、配偶者が頑なに変わらない場合、いっそのこと警察に逮捕してもらいたいと思うこともあるでしょう。
今回は、以下の内容についてお伝えしていきます。
虐待で逮捕されるケースとその罰則について
親が逮捕された場合、子供たちはどうなるのかについて
児童虐待を防止するための対策について
この記事が、あなたと、そしてお子さまが、今の辛い状況から脱するための1つのきっかけになることを願います。
警察に逮捕について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
弁護士相談に不安がある方!こちらをご覧ください。
1、児童虐待での逮捕実態をみる前に〜児童虐待の定義
児童虐待の定義は、児童虐待防止法第2条に列挙されています。
以下、1つずつみていきましょう。
なお、「児童」とは、0歳から18歳未満の子どもをさします。
(1)身体的虐待
まずは児童に対する暴行です。
外傷が生じる暴行はもちろん、外傷が生じるおそれのある暴行も虐待です。
例えば、子どもに対して食器などを投げつける行為。
結果的に子どもが上手にかわし外傷が生じなかった場合でも、外傷が生じるおそれのある暴行といえます。
身体的虐待は、児童虐待の約25%を占めています。
(2)性的虐待
子どもに対してわいせつな行為を行うことは虐待です。
また、子どもにわいせつな行為をさせることも虐待です。
性的虐待は、児童虐待の約1%を占めています。
(3)ネグレクト
長時間の放置や食事を与えないなどの行為も虐待です。
例えば、暑い車内に子どもを置いて長時間放置する行為です。
また、保護者でない同居人が(1)や(2)、または(4)の行為をしているにも関わらず、それを放置するなどをした保護者は、自らは行なっていなかったとしても虐待行為をしていることになります。
つまり、保護者でない同居人がそれらの行為をした場合、何らかのアクションを起こさなければ保護者も虐待をしたことになってしまいます。
虐待者本人にやめるよう話しても変わらない場合、早急に第三者へ相談することが必要です。
ネグレクトは、児童虐待の約20%を占めています。
(4)心的虐待
その他、暴行ではないけれど子どもに暴言がひどい、無視がひどいなど、精神的な苦痛を与える対応も児童虐待です。
さらに、配偶者(子どもにとってのもう一人の親)に対する暴力も、子どもに心的外傷を与える行為として虐待と定義されています。
心的虐待は最も多く、児童虐待の54%を占めています。
(児童虐待の定義)
第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
引用:児童虐待の防止等に関する法律
参考 厚生労働省 平成29年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>
2、児童虐待の実例
(1)生後11ヶ月の女児
生後11ヶ月の女児に対する虐待のケースです。
児童虐待容疑で逮捕されたのは女児の義理の父親でした。
女児は母親と前夫とのあいだの子どもで連れ子です。
事件当時母親は外出しており不在でした。
こたつの上にいた女児が邪魔でイライラした義理の父親は強い力で女児を振り払いました。
女児は頭蓋骨骨折などの重傷を負い搬送先の病院で死亡しました。
119番通報したのは義理の父親で、当時はこたつから落ちた事故を主張していました。
しかし、司法解剖の結果こたつから落ちた衝撃ではないこと、胸腺の萎縮から極度のストレスがあり日常的な虐待があったことが判明し、12年後に義理の父親が傷害致死容疑で逮捕されました。
母親も義理の父親の女児に対する日常的な虐待があったことを認めています。
義理の父親の暴行により死亡したのだとすれば、母親が日常的な虐待を黙認し、義理の父親と女児を二人きりにしたことも問題があったといえます。
参考:https://www.sankei.com/affairs/news/181108/afr1811080007-n1.html
(2)生後1ヶ月の女児
2014年に大阪で生後1ヶ月の長女が頭に重傷を負ったことが乳児揺さぶられっ子症候群(SBS)が原因であるとして母親が逮捕される事件が起きています。
弁護側は当時2歳だった長男が長女をベビーベッドから引っ張って誤って落としたことが原因だと主張していました。
しかし、大阪地裁は検察側医師らの「揺さぶられた可能性が高い」とする鑑定結果が信用できるとして母親に懲役3年執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。
生後1ヶ月といえば乳児は泣いてばかりで育児も大変な時期です。
保護者が注意深く育児をしたとしても子どもが怪我や病気をしないという保証はありません。
もっとも、昨今、SBS仮説に疑問点があることも指摘されており、SBS仮説を前提とする事件については見直しの動きも広まっています。
参考:http://www.iwasakishoten.site/entry/gyakutai/ennzai4
(3)2歳の女児
2歳の長女が頭に何らかの強い衝撃を負い、意識不明状態になりました。
事件当時母親は外出しており不在で、父親が119番通報しました。
長女は意識不明のまま病院に搬送されましたが、1週間後に死亡しました。
死因は頭蓋内損傷による脳機能障害とされました。
遺体からは硬膜下血腫やくも膜下出血の跡が見られたため、虐待容疑で父親が逮捕されました。
しかし、父親は「泣き出したからあやして一緒に転がっただけ」と容疑を否認しました。
この事件で真実虐待があったのかなかったのかはわかりませんが、どのような事件でも、捜査の最初の段階では、必ずしも厳格な医学的な根拠をもっているわけではありません。
虐待事件の多くは、当初の段階では警察の推測で捜査が開始され保護者は逮捕されてしまいます。
たとえ真実は虐待がなかったとしても、子どもに怪我を負わせてしまったという事実だけで逮捕のきっかけになり得るのです。
参考:https://www.asahi.com/articles/ASLCW3FSJLCWPTIL007.html
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