「私は30年近く幼児教室で多くの子どもたちと関わってきましたが、親御さんたちの子どもへの声かけでもっとも多かったのが、やはり“早くしなさい!”でしたね」
そう話すのは、子育て本作家の立石美津子さん。では、“早く!”と、わが子をまくしたててしまう親の深層心理とは?
●時間に追われるママ、おっとり気質の子どもにイライラするせっかちママ
「ひとつは、本当に時間に追われているケースです。スケジュールが詰まっている人にとっては、そのなかでいかに無駄なく一つひとつの事をこなすかが最優先になってきます。特に仕事をしている親御さんは時間の制約がさらに厳しくなりますから、朝、保育園に遅刻しないように送って、会社にも遅刻しないように向かう。帰りもお迎えに行って、夕食、お風呂、寝かしつけ…と、ずっと時間に追われています。そうなれば、少しのんびりしたい子どもの気持ちを受け入れる余裕などなく、子どもの行動一つひとつをまくしたてることになってしまうのも仕方ないですね」(立石さん 以下同)
もうひとつは、親子の気質の違いにもあるという。
「親子と言えども、気質は正反対の場合もあります。親御さんがせっかちで、お子さんがおっとりさんの場合、何事にものんびりしている子どもの行動が理解できないので、余計に“早く! 早く!”と、まくしたててしまうのです。こういうケースの場合、親御さんにとってすごくストレスになるのもわかりますが、つい子どもにイライラをぶつけてしまいがちなので要注意です」
●完璧主義のママは、奔放な子どもの行動が理解できず
さらに、こういったケースも。
「親御さんが“完璧主義”の場合も、つい子どもをまくしたててしまいます。完璧主義の人は、物事をきっちりさせたい。スケジュールなら、きっちりこなしたい。また、問題解決を早くしたい。白黒はっきりさせたい。あいまいにしたくない…だからこそ、奔放な子どもの行動やアバウトな子どもの心理が理解できず、“早くしなさい! 早く!”と連呼して自分の思い通りにコントロールしようとします」
このように、いろいろな心理が“早く”という言葉の背景にはあるそう。しかし、そのどれにも共通していることは、“親の都合”であるということだという。
● “早く!”とまくしたてるのは、すべて親の都合。子どもは親の所有物にあらず
「早くしたいのは親の一方的な都合の場合がほとんどです。子どもには、子どもの都合があるのかもしれません。例えば、“早くおもちゃ片付けなさい!”と、言われたとき、まだもう少し遊んでからと思っていたのかも? “早く宿題しなさい!”と言われたとき、子どもはおやつを食べ終わってからやろうと決めていた可能性もありますね。つまり、子どもも自分がしたいことの優先順位がある立派な人間だと理解することが大事だ」と、立石先生は話します。
「もしかすると、親御さんの心のどこかに、“意のままに操れる自分の所有物”というおごりがあるのかもしれません。そこをまず捨てましょう! そうすることで、命令ばかりしている自分を冷静に顧みることができるのです」
もちろん、どうしても時間の制限があって早くしてほしいときもある。そういうときは、具体的に早くしなければならない理由を理解させる工夫が効果的だという。
「“早く! 早く!”という指示命令で行動することは、犬のしつけのような“条件反射”にすぎず、本当に急がなければという自主性にはつながりません。なぜ、そうしなければならないのか? ということをきちんと話して理解させることが行動につながる近道です。その真意が伝わらなければ、毎日毎日同じことの繰り返しで、親御さんはいつまでも叱り続けなければならないのです」
限られた時間のなかで様々なことをこなさなければならないのも、ママの現実。ならば。一方的にまくしたてるのではなく、きちんとコミュニケーションをとって状況を理解させ、やがては子どもの自主性につなげられるようにしたいものですね!
(構成・文/横田裕美子)