「正解はわからなくても不正解はある」。出演作が軒並み反響を呼ぶ、俳優・瀬戸かほの魅力。

モデル活動からはじまり、徐々に映画シーンにも進出。俳優業は、もうすぐ10年を迎える瀬戸かほさん。映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1』(19′)、『神様のいるところ』(19′)、『リビングの女王』(20′)、『クレマチスの窓辺』(20′)、『この日々が凪いだら』(21′)、『NEW RELIGION』(22′)、『empty』(23′)……と立て続けに主演作を発表。まさに旬の俳優として活躍する彼女は、どのようにしてキャリアを積んできたのだろうか。

意外にも「今まで、一つのことに専念したことがない」という瀬戸かほさんが、唯一長く続いたのが21歳から始めた俳優業だった。学生時代は、全くちがう仕事に就こうと考えていたのだそう。

「以前は、家庭科の教師を目指していました。でも、大学の講義の数が多すぎて挫折。そんななか、在学中にはじめたのがモデルでした。当時は写真を撮られるのがとても苦手で、それを克服するために友人の被写体をすることに。写真をTwitterのアカウントに投稿していたら、徐々にフォロワーも増えていき、仕事にも繋がるようになりました。卒業後は、アパレル企業への就職を検討していたのですが、説明会でうっかり寝てしまい、受ける資格がないかもしれないと断念(笑)。俳優の道を選ぶ決心をして、芸能活動を本格的にスタートしました。自分の中で『役者=技術職』という認識があって、何年かかるか分からないけど、演技を磨いていくことはできるかもしれないと思ったんです。そこから、目の前の仕事に向き合い続けて、今に至ります」


取材当日は、黄色と水色をあわせた爽やかな装いで登場した瀬戸さん。


約10年間、ひたむきに駆け抜けてきた俳優業。これまで、さまざまな役に向き合ってきた。ここ数年、主演に引っ張りだこな瀬戸さんは、側から見れば順調にキャリアを重ねているように感じる。しかし、出演の場が増えたからこその葛藤があったと言う。

「モデルと女優、それぞれに一生懸命取り組んでいるのに、そのどちらにもなれていない中途半端な存在になってしまっている気がしていました。芝居で、表現したいことがあっても、自分の実力が足りず上手くいかない。今後、役者を続けられるかどうか、不安でいっぱいでした。『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1』(19′)での挑戦は、覚悟が必要でしたが、役者活動においてターニングポイントになった大切な作品です」

同年に撮影した『神様のいるところ』(19′)では、荒川ひなたさん扮する傷を負った少女とともに逃避行する孤独な女性“葵”を演じた。

「当時、中学生の荒川ひなたさんと共演したのが新鮮でした。彼女の明るさ、天真爛漫さに何度も救われました。芝居をするときは、いつもその役の一番の味方になりたいと思っているのですが、撮影に入るまで、自分が演じる“葵”という人物について理解できない部分があったんです。でも、荒川さんと芝居をしていくなかで、徐々に“葵”の気持ちが見えていきました」

映画と音楽の祭典「MOOSIC LAB 2019」で、人気アーティスト・羊文学の『夕凪』とコラボレーションした『この日々が凪いだら』(21′)。常間地裕監督の初長編作品だった。

「撮影中は、一つ一つのシーンに時間をかけることで生まれる絆を感じ、改めて映画は妥協とこだわりの世界だと思ったのを覚えています。お花屋で働いている設定や、結婚する友人と電車で別れる場面は、私の実体験を常間地監督が脚本に書いてくださいました。自分に近い人間を演じることへの難しさを痛感した作品です。でも、昨年、劇場で鑑賞したら自然と役と自分を別の人間だと受け入れることができました。月日が経って、作品は同じはずなのに、受け取り方が変わるのは映画のおもしろいところですね」

『クレマチスの窓辺』(20′)は、都会の生活を抜け出して、水辺の街にある亡くなった祖母の古民家で過ごす女性の1週間が描かれる。一癖ある登場人物とのやりとりもおもしろいが、美しい景色も必見。

「水辺のロケーションが綺麗でした。引き絵かバストショットが多かったので、猫背の私は背筋をピンとさせなくてはとドキドキしていました。永岡俊幸監督とは、現在、新たに『きまぐれ』という作品を一緒に進めています。昨年の秋頃に、私が原案を書き、それを数ヶ月間寝かせていたのですが、永岡監督に相談したところ、映像化が実現。今年6月に撮影を終えました。クラウドファンディングも想像を超えるほどみなさまにご支援いただけて、感謝の気持ちでいっぱいです。プロデューサーも務めているのですが、慣れないことばかりで、発見と苦悩の連続。内容のプレゼンやキャスティング、ロケ地の交渉など……これまで携わったことがなく、こんなにも大変なのかと驚きました。役者という立場では、気づけなかった背景を知れてうれしいです。自分の未熟さに打ちひしがれることも多々ありますが、この貴重な機会を目一杯楽しみたいです」

映画『きまぐれ』は、只今、編集作業の真っ最中。12月に「八王子Short Film映画祭」で発表される予定とのこと。瀬戸さん自身も、数多の作品に出演し、スタッフとしても携わるようになり、新たに見えてくるものがあった。

「当たり前ですが、映画はたくさんの方によって作られていることを改めて実感しました。さまざまな工程で、助けてくださる方がいて、完成に近づいていきます。一人でも多くの方に届けたいと心の底から思っています。お芝居は、変わらず辛い瞬間もあるし手探り状態ですが、“正解はわからなくても不正解はある”という感覚が身につきました。何度もチャレンジして、シーンを生み出していく。そうすると、みんなが通じ合って一つになる瞬間があります。その喜びを感じたいがために、今もこの仕事を続けられているんだと思います」

YouTubeやInstagramでは、プライベートな投稿を発信。日常や趣味を赤裸々に綴っている。刺繍アカウントでは、彩り豊かな色を用いて、細かな描写を表現。

「緊急事態宣言で仕事がストップしたときに、刺繍をはじめました。本でステッチの方法を勉強したのですが、図面が難しすぎて、途中から自己流で縫っています。モチーフにするのは、純喫茶で食べたパフェやプリンアラモードなど、大好きな甘いもの。布にチャコペンで下絵を描いた上から、なぞるように形作っています。出張先は移動中の暇つぶしになるし、部屋でも台詞を覚えながらチクチクと手を動かして、息抜きをしています」

瀬戸かほ 俳優

せと・かほ/1993年神奈川県生まれ。2014年からモデル活動をスタート。2015年、映画『orange-オレンジ-』で俳優デビュー。近年は、映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1』(19′)、『神様のいるところ』(19′)、『リビングの女王』(20′)、『クレマチスの窓辺』(20′)、『この日々が凪いだら』(21′)、『NEW RELIGION』など、数多くの作品の主演を務める。現在、初めてプロデューサーに挑戦した映画『きまぐれ』を制作中。

photo: Hiromi Kurokawa text: Nico Araki

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