【小林美香さんインタビュー】変わりつつあるもの、変わりきれない部分。広告から見えてくるジェンダー観、ルッキズムの現在地

いいことも悪いことも。対話を重ねた先にある“いい広告”と生きやすい社会

──広告業界をみていて、いい変化を感じることはありますか?

私は広告業界の人間ではないので直接的な変化を感じられているわけではないですが、この本を書いたことでさまざまな企業からお声がけをいただくようになりました。そのほとんどが、20代、30代の女性からなんです。

その方々はきっと組織の中で、すでに多くの違和感を覚えている。もしかしたら理不尽な思いをしたこともあるかもしれない。そういう方々が、何かおかしいと気づきだしているんです。問題意識を持つことで、何か変えられるんじゃないか、変えていこうと思っている若い方々がたくさん出てきていることは希望だと思います。


写真左・聞き手の綿貫大介さん「内部から変化を求める声があがるのはとても喜ばしいことですね」。

──広告におけるジェンダー表象について、今小林さんが気になっているトピックがあれば教えてください。

本を書いて特に反響が多かったのは、男性の表象について書いた部分でした。男性の場合はいわゆる「男らしい」とされる姿(果敢な精神、強靭な肉体などが強調されているもの)がほとんどで、まだまだ画一的すぎる。ジェンダーの表現で話題になりやすいのは、萌えだったり、女性の描き方の問題への言及がこれまでは大半だったことを思うと、男性の表象に対しても声を上げる人が増えてきたのはいい傾向かもしれません。

──ジェンダー・セクシュアリティについての表象はまだまだわかりやすい「らしさ」を強調するようなイメージが脈々と使われている。だからこそ、その違和感を企業側に伝えていく必要がありそうですね。一方で家電や洗剤などのCMでは、男は仕事、女は家事というような性別役割を固定するような広告は減ってきている気がします。

「家事をする男」「働く女」 を可視化することはポジティブな変化だと思います。ただ、たとえば洗剤のCMにイケメン男性を起用するのは推し文化、特に異性愛的な関係性に根ざした眼差しとも結びついている可能性もあると思っています。

──気になるポイントは人によって違うからこそ、完璧な広告なんて存在しないのかも知れないですね。では賢い消費者でいるために、私たちは広告とどう向き合うべきでしょうか。

みなさんで広告について話すような機会をつくるといいのではないでしょうか。大学の授業や企業のワークショップでは、まずどのような広告に触れているのかを聞き、その表現に対して思うことをみんなに共有してもらいます。

微妙な違和感を表明し、自分のものの見方・感じ方を言語化する場所をつくることが大事なんです。ハラスメント耐性がつくことはスキルではないし、生き延びる術にもなりません。対話は自分から声をあげ、表現する方法の一つです。それにクラスメイトや職場の仲間が、こういうものを見てイラっとしているか、 モヤモヤしているかを知ることは、お互いを理解して受け止め、豊かな人間関係を築く手がかりになると思います。

相手がどういう表現が嫌かを理解できれば、円滑にコミュニケーションがとれますから。そして同時に、消費者と企業がコミュニケーションをとれる場も必要です。それによって広告表現が少しずついい方向に進んでいけば、もっと生きやすくなる人も増えてくるのではないでしょうか。

小林さんの著書:ジェンダー目線の広告観察

今回のインタビューの中でも登場した脱毛・美容広告、「テキる男」像などへの考察をはじめ、広告業界の根深いジェンダーギャップ、公共性の捉え方など、私たちを取り巻く広告を観察。無意識に刷り込まれる規範や価値観を解きほぐし、「らしさ」の呪縛に抵抗するヒントが詰まった1冊です。

text_Daisuke Watanuki photo_Koichi Tanoue Edit_Hinako Hase

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