育児は孤独…法的知識こそがお守りになる 弁護士の自責の念から生まれた「子育て六法」

育児は孤独…法的知識こそがお守りになる 弁護士の自責の念から生まれた「子育て六法」

子どもをめぐるトラブルは尽きない。「言うことを聞かない子どもについ手を上げてしまった」「子ども同士のけんかでお友達にけがを負わせた」など、子どもの発達段階によってその内容は様々で、我が子が被害を受けるだけでなく、加害者になることも有り得る。親の目の届かない場所でトラブルが発生する場合もあり、冷静に対処することが難しい。

「親になったら知っておきたい 子育て六法」を昨年出版し、子育てに関する法的解説をまとめた高橋麻理弁護士は、「子どもにはあれこれ口出し、手出しをせず、見守りに徹したいと思う一方で、子どもの笑顔を曇らせるような物事はなるべく早く摘み取ってしまいたいという気持ちもよくわかります」と話す。

トラブル解決のヒントとなる「法的な考え方」を「これから子育てをする人や周りの人に『お守り』として備えておいてほしいです」という高橋弁護士に話を聞いた。

●「本当に頼れる子育て本が作りたい」

読み応えのある子育て本はあっても、読み終えた後に実践できることは少ない。「本当に頼れる子育て本を作りたい」という子育て中の女性編集者の発案から、執筆活動が始まった。

子育ては孤独なもの——。高橋弁護士も、シングルマザーとして子育てする中で、かつては完璧主義が高じて「『こうあるべき』『こうするべき』を押し付けてしまっていた」と話す。夏休みの宿題を7月中に終えられるよう、勝手に「宿題消化スケジュール」を組んでしまったこともあるという。

子どもと1対1の閉鎖的な空間の中で、参考になりそうな本を手に取ることはもちろん、自治体の窓口に電話する場面を想像するだけでもくじけてしまうほど余裕がなかった。

「『相談すればいい』と言うのは簡単ですが、実際はものすごくハードルの高いことに思えてしまうんです。ありのままを受け入れられないことで自分を責めていました。何より子ども自身もつらかったと思います」

同じように悩む親子に届いてほしいという思いを一冊に込めた。

●まずは考える癖をつけることから

法的解説は、「具体的な一歩として何をすればいいのか」を示すことを意識して、100問のQ&A形式でまとめた。

例えば、中高生などがチャットグループ内で1人に対して暴言のようなメッセージを送る、1人だけ仲間はずれにして別グループで悪口を言い合うなどの「SNSいじめ」を取り上げている。

▽発覚しにくい▽いじめる側が罪悪感を抱きにくい▽受け手次第で、言葉を投げかけた側の意図を超えた深刻なダメージを負わせることがあるーなどの特徴を挙げ、名誉毀損罪や侮辱罪に該当したり、慰謝料の支払い義務が発生したりする可能性を指摘する。

被害者側では、学校への調査要求や弁護士への相談などの対応を紹介。いじめの証明は容易でないが、日時も把握できるようなメッセージのスクショ画像を保存するなど誰でも実行しやすい証拠化の方法を提案している。

繰り返し伝えているのは、「まずは子どもの言い分を踏まえて『事実確認』を行うこと、適切な相談先に頼ること、証拠を集めること」といった基本姿勢だ。

「『法的な考え方』を身に着けることで、法律や国のガイドラインを道具として使えるようになってくると思います。

私は、『法的な考え方』というのは、法律の条文や裁判例を覚えるということではなく、たとえば、(1)世の中にはいろいろな立場でいろいろな考え方をする人がいることを前提として一人ひとりが個人として尊重されるためにはどうしたらいいか考えること、(2)事実を正確に把握すること、(3)事実をもとに自分の意見を形成すること、(4)自分の意見を人に伝えるにあたっては、相手がその意見に対しどう考えるか、どんな反論があり得るか考えることなどを指すと考えています」(高橋弁護士)

設問の中には、「発達障害を理由に入園を断られた」「教師が差別的な発言をしている」「きょうだい間で性的ないたずらがある」など、一見普遍的ではない問題をテーマにしたものもある。

しかしいずれも根底には「子どもの人権」の問題がある。たとえ自分にとって身近なケースでなくても、周囲には身近な問題として悩んでいる人がいるかもしれない。「誰かの助けになるかもしれない」という気づきにも繋がってほしいという思いも込められている。

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