「洗濯物干せない」「飼い猫はどこへ?」 能登半島地震、復旧遅れる被災地の"格差"

「洗濯物干せない」「飼い猫はどこへ?」 能登半島地震、復旧遅れる被災地の"格差"

元日の能登半島を襲った大地震では、建物の倒壊や火災が相次いだほか、津波被害もあり、今も約1万4000人が避難生活を余儀なくされている。発災から約1カ月、筆者は東京から関越道、上信越自動車道、北陸道を経て被災地に入った。道中は、東日本大震災のときほど、大型車やボランティア車両が目立たないように感じた。取材を振り返る。(ライター・渋井哲也)

●大規模な断水が「復旧」に影響を与えている

まず感じたのは、想像以上に”復旧が遅れている”ことだ。1月31日に石川県に車で入ったが、東日本大震災とは違い、被災地に向かう車両が常にあるわけではなかった。もちろん半島という地理的条件や被災規模の違い、発災から1カ月ということもある。ただ、東日本大震災のときは、1カ月経っても多くの車両が東北道や常磐道を行き来していた。

被災地に入って、その一因に思い当たった。水道の寸断だった。いまだに断水が続いている地域が多い。

東日本大震災の当時は、津波の被災地近くでも、被害の少ないコンビニや飲食店、宿泊施設が営業していた。しかし、能登半島地震の被災地、特に輪島市や珠洲市では、地震の影響で水道管が寸断されて水が使えなくなっていた。支援拠点に寝泊まりしているボランティアもいるが、各自治体から派遣された職員などは、水道が使える七尾市以南に宿泊拠点を設けるケースが多いようだ。

筆者も取材するにあたり、初日は金沢市内で宿泊したが、2日目以降は七尾市内のネットカフェで夜を過ごした。そのネットカフェはシャワーやトイレが使えた。ただ、近くのコンビニでは下水が復旧しておらず、トイレが使えなかった。

市内の飲食店の一部は水道が使えなくても提供できるメニューを出していたが、ほとんどの飲食店が閉まっていた。同じ七尾市内でも地盤の影響か、少し地域が違うだけで、水道が使えるところもあった。こうした事情もあり、七尾市以南から支援・ボランティアに通う人が多かったとみられる。大規模な断水は間違いなく復旧のスピードに影響を与えていた。

ちなみに、震度6程度の地震に耐える水道管の耐震適合率は全国平均41.2%。石川県は平均36.8%で、県庁所在地の金沢市は60%、七尾市は21.6%、珠洲市は36.2%にすぎない。輪島市は52.6%と平均より高いが、それでも水道復旧の作業が続いている。

●津波が来るかもしれないという「意識」はあった

今回の能登半島地震では、東日本大震災ほど広範囲ではないが、津波が押し寄せた地域がある。2月2日、珠洲市三崎町寺家の下出地区を訪れた。35戸に90人ほどが暮らしていたところに津波が押し寄せた。区長の出村正広さん(76)はこう話す。

「新聞を読むと、高さ4メートル(の津波)とか書いてあるけど、俺は高さ5メートルくらいだと思っている。1メートルくらい地盤が隆起しているから。自分の家は津波による被害は少なかった。玄関まで砂は来たが、床上までの被害はない。一つ道路を超えただけで津波被害があった」

この地域では毎年、津波を想定した避難訓練をしていたという。

「あまり来ないかな、と思いながら(避難訓練を)しとったんです。訓練では多いときは2、30人参加していたけれど、少ないときは10人くらいしかおらんかった。ところが、今回の津波のときは、地域の人がみんな来ていた。それをみると、(津波が来るかもしれないという)意識はあったんじゃないかな」

津波を意識した住民は、集会所のある高台へ避難した。

「ちょうど地震のときは堤防の近くに立っていたんです。2回目の地震が来たときはすごかった。すごく揺れたが、おさまってくれた。なんか、テレビでやっていたみたいで、みんな外に出てきた。だから、慌てて高台に車で向かった。車だから5分もかからない。すでに高台には何人か避難していました。

集会所を開けたりしていたときに、みんながフェンスから海を見ていて、『津波が来た』という声が聞こえたので、海を見たら、潮が引き始めていました。でも、また、波が戻ったりしたんです。そしたら、また潮がひいて…。そしたら今度、また津波が来て。何回かわからないけど、次から次へとまた来て…」

この地域の周辺には「津波が来る」というような言い伝えなどはあったのだろうか。東日本大震災の被災地では、津波の教訓を刻んだ石碑が見られたが、能登ではそうした石碑は見られなかった。

「昔は(津波が来るとは)言われてなかったけど、話を聞くと、(この地域にも)100年くらい前には来ていたらしい。東日本大震災で、行政のほうも、津波に関して敏感になっていたんですよ。ここは高さ13.5メートルという想定でした。少し行くと18メートル。津波の恐ろしさは、東日本大震災をはじめ、外国でもあるんじゃないですか。そういう報道がみんなの頭にあったと思います」

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