「乳がん放射線治療」の費用や治療期間はご存知ですか?【医師監修】

「乳がん放射線治療」の費用や治療期間はご存知ですか?【医師監修】

乳がんの治療では、手術の前後で行われる追加治療の重要性を理解して治療をおこなうことが大切です。本記事では乳がんにおける放射線治療について以下の点を中心にご紹介します。

・放射線治療とは?

・乳がんの放射線治療の目的と治療のタイミングとは?

・乳がんの放射線治療のメリットとは?

乳がんにおける放射線治療について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。

監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)

筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。

放射線治療のメカニズム

放射線治療は、がん細胞を破壊するために、X線やガンマ線、電子線など特定の種類のエネルギーを利用して、がん細胞のDNAにダメージを与え、その増殖を阻止する医療技術です。放射線は、目に見える光とは異なり、人体を透過する能力があります。そのため、体内の深部にあるがん細胞にも届けられるのです。現在の技術では、CT画像を用いて治療位置を正確に把握し、正常組織への影響を最小限に抑えながらがん細胞を狙い撃ちできるようになっています。治療には主に二つの方法があります。

外部照射:体の外から放射線を照射する方法で、リニアックなどの高エネルギー放射線を発生させる装置を使用します。これにより、体の表面だけでなく深部のがん組織にも放射線を届けます。

小線源治療:放射性物質を体内に直接挿入し、局所的にがん細胞を照射する方法です。例えば、子宮がん治療では、イリジウムの線源を病変部に密着させて照射します。

乳がんにおいて放射線治療をするタイミング

乳がんにおいて放射線治療を行うタイミングとはいつなのでしょうか?乳がんの治療の基本は手術による患部の切除ですが、以下に手術の前後と転移時の追加治療について詳しく説明していきます。

手術前

手術前には、薬物による化学療法が実施されます。
化学療法により、乳がんの大きさを約70%から90%ほど減少できると報告されています。術前の化学療法はもともと、乳房温存での手術の可能性を高め、手術の範囲を縮小することで外見的な影響を最小限に抑える目的で用いられていました。しかし、現在では乳がんの初期治療における重要な一環として位置づけられており、特に大きなしこりを持つ浸潤性乳がんや皮膚にまでがんが広がっている局所進行性乳がん、炎症性乳がんの患者さんに推奨されます。一方で、がんが広範囲に及んでいる場合やもともと腫瘍が小さい場合には、術前化学療法の利点は少ないとされています。

手術後(乳房温存術)

乳房温存術後の放射線治療は、乳がん治療において重要な役割を果たします。
手術で腫瘍を取り除いた後も、乳腺組織に残る潜在的ながん細胞を排除し、再発を防ぐために放射線治療が行われます。実際、放射線治療を行うことで乳房内の再発が約1/3に減少すると報告されています。そのため、特殊な事情(例えば妊娠中である、膠原病を患っている、以前に同側の乳房へ放射線治療を受けているなど)がない限り、乳房温存手術を受けた患者さんのほとんどに対して手術後の放射線治療が推奨されます。化学療法と手術、放射線治療の組み合わせによって、乳房内再発のリスクを大幅に減少させ、がんの排除を目指します。

手術後(乳房切除術)

乳房切除術を行った後の放射線治療は、米国腫瘍学会(ASCO)や日本乳癌学会によるガイドラインでは、局所再発リスクが高い場合に手術後の放射線照射を行うことが推奨されています。このようなリスクが高い患者さんでは局所再発率が約20~45%に達することが知られており、放射線治療や化学療法、ホルモン療法と併用することで、特にリンパ節に転移がある閉経前の患者さんにおいて生存率の向上が報告されています。
放射線治療を行う際には、心臓や肺への影響を最小限に抑えることが重要です。この目的のために、CTシミュレータなどの高精度放射線治療計画装置が使用され、放射線の照射範囲をより正確に設定することが可能になっています。こうして、乳房切除術後の放射線治療は、局所再発のリスクを低減し長期的な生存率を向上させるために重要な役割を果たしています。

転移時

乳がんが脳や骨など他の部位に転移した場合、または胸壁やリンパ節に局所再発が見られる場合、放射線治療が有効な手段として用いられます。脳転移には、脳全体を対象とした全脳照射と、特定の病変に焦点を当てた定位照射の2種類の方法があります。骨転移の治療では、ホルモン療法や抗がん剤治療などの全身療法が中心となりますが、骨折のリスクが高まる場合や、痛みや神経障害が生じる場合には、放射線治療が選択されることがあります。

乳がんに対する放射線治療方法

乳がんに対する放射線治療は、患者さんの具体的な状況に応じて慎重に計画され実施されます。まず放射線治療の専門の医師が状態を診察し、これまでの検査結果や治療歴を詳細に分析します。これにはCTスキャンや病理検査の結果が含まれ、これらを基に放射線の照射範囲と量が決定されます。治療の実施は通常、平日毎日行われ、1回につき1~3分程度照射されます。治療回数は、およそ16回から30回以上と個々の病状や治療目的によって異なります。
放射線治療は正常臓器への影響を最小限に抑えつつ、必要な部位に充分な放射線を届けることが重要です。このため、三次元原体照射(3D-CRT)や強度変調回転照射(VMAT)など、様々な照射技術が選択されます。治療はCT撮像時と同じ体位で行われ、体位の調整や位置合わせは診療放射線技師によって細心の注意を払って行われます。また、乳房全切除術後には、放射線が皮膚表面に十分に届くようにボーラスと呼ばれるシートを使用することがあります。
そして、治療の短期化、簡便化、低侵襲化も進められており、SAVIを用いた加速乳房部分照射は全乳房照射に比べて治療期間を大幅に短縮し、部分照射による被曝量の削減が可能とされています。この方法では1日2回の照射を5日間で合計10回行い、ピンポイントでの照射により再発予防効果が期待されます。
現在、全乳房照射との比較研究が行われており、その結果次第で今後の治療法としての普及が見込まれます。

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