大谷翔平はいつから投げられる? 靭帯再建術「トミー・ジョン手術」について医師が解説

大谷翔平はいつから投げられる? 靭帯再建術「トミー・ジョン手術」について医師が解説

大谷翔平選手のニュースをきっかけに耳にすることが増えた「トミー・ジョン手術」ですが、どのような手術なのかご存知でしょうか。DHとして試合に出場しているものの、まだピッチング練習を再開したという報道はない大谷選手、一体いつごろから投げることができるのでしょうか。手術についての基本情報や、効果、復帰するために必要なことについて、日本肘関節学会理事長の正富隆先生に詳しく解説していただきました。

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監修医師:
正富 隆(社会医療法人行岡医学研究会 行岡病院)

一般社団法人日本肘関節学会 理事長。大阪大学整形外科、大阪厚生年金病院などを経て現職。手の外科、投球障害、四肢外傷などの上肢外科のスペシャリストとして広く知られている。日本整形外科学会 専門医・指導医、日本リウマチ学会 専門医、日本整形外科学会 リウマチ医、日本手の外科学会 専門医、日本リハビリテーション医学会 専門医。

トミー・ジョン手術について知る

編集部

はじめに、トミー・ジョン手術がどのような手術なのか教えてください。

正富先生

トミー・ジョン手術は、損傷した肘の内側側副靭帯(MCL)を再建する(作り直す)手術です。患者自身の体から腱を採取し、損傷した靭帯の代わりとして移植します。代わりといっても損傷した靭帯を全て取り替えるわけではなく、損傷した靭帯の上に補強するように移植します。この手術は野球選手に対して実施される事が多いですが、格闘技やコンタクトスポーツの選手が何度も損傷して機能不全に陥った内側側副靭帯損傷の治療法としても知られています。

編集部

手術で使用される腱はどこから採取するのですか?

正富先生

最も一般的に使用されるのは、前腕の長掌筋腱や、太ももの裏の半腱様筋腱です。長掌筋は生まれつきない人もいるので、移植腱として使用しても問題ないと考えられています。長掌筋が無い人の場合に半腱様筋腱を使います。何回も手術する場合は反対側のものを使うことになります。

編集部

移植腱が靭帯として機能する理由は何ですか?

正富先生

移植で用いられる腱が靱帯と極めて似ており、引っ張り伸ばされる「牽引力」に対して強靭な組織であるため、手術後、骨の穴に通した部分がしっかりと骨に固着されれば靭帯として機能することが期待されるからです。そのためには生体の適合性が高い「自分の体の組織」を使用する必要があり、人工靭帯では代用できません。しかし、移植腱はもとの靭帯と完全に同じ組織には変化しませんし、さらに強くなることもないということは知っておく必要があります。

編集部

トミー・ジョン手術で運動機能は向上しますか?

正富先生

手術自体で運動機能を向上させることはできません。手術は損傷した靭帯を修復することが目的であり、球速の向上など直接的なパフォーマンスの向上をもたらすものではありません。しかし、リハビリテーションやコンディショニング、トレーニングにより、下半身や体幹が鍛えられ、肘に負担のかからないフォームや投球スタイルが身につくことで、間接的にパフォーマンスの向上が見られることもあります。

トミー・ジョン手術をおこなう人は増えているのか

編集部

トミー・ジョン手術をする人が増えているというのは本当ですか?

正富先生

そうですね。特にアメリカの野球選手においてトミー・ジョン手術をする人が増えている傾向にあります。トミー・ジョン手術が始まったのはほぼ50年前です。近年ハイブリッド手術などの新たな方法が報告されていますが、長掌筋腱を移植して靭帯を作り直すという手術方法は大きく変わっていません。手術の方法が画期的に進化したことをきっかけに手術する人が増えたというわけではないと言えます。

編集部

なぜトミー・ジョン手術をする人が増えているのですか?

正富先生

今までのプロ野球選手は、トミー・ジョン手術後に復帰できず、選手をやめなくてはいけない場合も多くありました。しかし、最近では大谷翔平選手など、多くの日本人メジャーリーガーを見ても分かるように復帰できる選手が増えてきたため、選手または医師が手術をしようと思えるようになったことが、手術が増えた一因です。若い人も手術で復帰できるイメージができるので、手術したいという人が増えています。

編集部

復帰できる選手が増えている理由は何ですか?

正富先生

手術の方法として大きな変化は無いことはお話した通りです。つまり、手術後にどのようなリハビリをし、何が復帰のために重要なのかがわかってきたからです。また、フォームが固まっていない若い選手は、コンディショントレーニングやフォームの修正に比較的柔軟に対応でき、中には手術後に球速が上がる人も出てきます。しかし、これは手術により靭帯を補強した事が要因ではなく、再建した靭帯に負担をかけずに投球できるようになることが、理想的な投球フォームにつながったからと考えるべきだと思います。

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