高齢者の包茎… 介護者が知っておきたい基礎知識とサポート方法

高齢者の包茎… 介護者が知っておきたい基礎知識とサポート方法

高齢者の包茎は、ただの見た目の問題ではありません。社会の高齢化に伴い、包茎に関する高齢者の悩みと介護者の負担が増加しています。そこで、さぎぬま泌尿器科・美容クリニックの野口先生に、包茎の医学的側面と介護での対応について詳しく解説してもらいました。

監修医師:
野口 尊弘(さぎぬま泌尿器科・美容クリニック)

帝京大学医学部を卒業後、同大学院の医学研究科を修了。学問的な基盤を固めた後、帝京大学医学部附属病院で臨床助手を経て、順天堂大学医学部附属静岡病院で助教授を務めた。現在は、さぎぬま泌尿器科・美容クリニックの院長として、経験と知識を生かしている。医学博士、日本泌尿器科学会泌尿器科専門医(JUA Board Certified Urologist)。低侵襲治療の革新であるロボット支援手術の認定資格(da Vinci Certificate)も保持。日本抗加齢医学会、日本美容外科学会(JSAS)、日本美容外科医師会といった複数の学会にも所属し、抗加齢医学や美容外科の分野においても活躍している。

包茎の医学的側面と介護の課題

編集部

高齢者の包茎に悩む介護者が増えていると聞きましたが、その実態はどのようなものですか?

野口先生

高齢者の介護において、包茎が問題になるケースはいくつかあります。まず、高齢者では皮膚の弾力性が低下しており、包皮が狭くなることがあります。これは包茎が原因で局部を清潔に保つことが難しくなり、感染症や炎症のリスクを高める可能性があります。介護者が高齢者の包茎に悩む主な理由は、適切な局部ケアの難しさにあります。局部の清潔を維持するためには、包皮をゆっくりと引き下げて洗浄する必要がありますが、これが高齢者にとっては痛みを伴うことがあります。また、狭い包皮が原因で尿路感染症などの合併症を引き起こすこともあります。そのため、高齢者介護においては、包茎の状態を適切に管理し、必要に応じて専門医のアドバイスを受けることが重要です。日常の清潔ケアのほか、痛みや不快感、感染症の予防といった観点から、専門的なケアが求められることもあります。

編集部

介護者が言葉がけをして、自身の陰部を洗ってもらうように伝えれば良いのでしょうか?

野口先生

もちろん自己ケアができるのであれば、それに越したことはありません。しかし、身体介護が必要となる高齢者のほとんどの場合、自分の陰部のケアを行うことが難しくなるため、介護者はこれらのタスクを引き受けることが多くなります。しかし、陰部のケアは非常にデリケートな問題であり、介護者にとって精神的および肉体的な負担が大きいです。

編集部

確かに非常に繊細な場面となりそうですよね。

野口先生

多くの介護従事者や家族は、高齢者のプライバシーと尊厳を尊重しながら適切なケアを提供するという原則を理解しています。しかし、この原則は介護を行う人々にとって時に大きなプレッシャーとなることも事実です。

編集部

「相手が嫌がっているのに今行う必要があるのか?」「利用者本位(利用者主体)に反しないか?」「自分の価値観を押し付けてはいないか?」などの罪悪感のような感情でしょうか。

野口先生

その通りです。介護現場では、認知症や麻痺などにより自己ケアが難しい高齢者が陰部洗浄などの介助を拒否することがあります。このような状況は、介護者にとって特に重大な課題となり得ます。

編集部

この課題を解決させるための介護者に求められる行動はどのようなものがあるのでしょうか?

野口先生

定期的な医療機関でのチェックや専門医への相談が有効です。これにより高齢者の包茎に関連する健康リスクを管理し、適切な治療を受けることが可能です。介護者が感じるプレッシャーの視点で考えても、陰部洗浄を拒否する高齢者さんに対して「お医者さんからの指示です」と言えた方が介護者自身、気持ちがラクになりませんか?

編集部

たしかにその通りですね。

野口先生

また、それには介護者に高齢者の包茎に起因する健康リスクを理解してもらうということも重要な目的になっています。この知識は、適切なケアを行うために不可欠であり、高齢者の健康と安全を守る上で役立つからです。

高齢者における包茎の健康リスク

編集部

高齢者の方が包茎だと、どのような健康リスクがあるのでしょうか?

野口先生

いくつかの健康リスクをあげてみましょう。

皮膚の弾力性の低下

年齢に伴い皮膚はその伸縮性を失い、特に包皮の部分で顕著になります。これにより、包皮が狭くなり、亀頭を覆うことが困難になる場合があります。これは高齢者特有の現象です。

慢性疾患の影響

糖尿病などの慢性疾患は血流を悪化させ、皮膚の健康状態に影響を及ぼします。これが包茎の問題を悪化させる原因となることがあります。

尿路感染症

包皮と亀頭の間に細菌が蓄積しやすく、これが尿路感染症を引き起こす可能性があります。

包皮炎

清潔に保ちにくい環境が皮膚炎のリスクを高めます。

真菌感染症

湿度が高く清潔に保つのが難しい環境は真菌の繁殖を促し、感染を引き起こす可能性があります。

皮膚の狭窄や癒着

長期間の炎症により、包皮が狭くなるか亀頭に癒着し、排尿障害を引き起こすことがあります。

皮膚の硬化

慢性的な炎症は皮膚の硬化を引き起こし、不快感や痛みを伴います。

皮膚潰瘍

長期間の刺激や圧迫が潰瘍を引き起こすことがあります。

全身性感染症のリスク増加

特に免疫力が低下している高齢者では、局所的な感染が全身に広がるリスクが増加します。

これらのリスクは、高齢者の包茎を適切に管理しない場合、顕著になります。したがって、定期的な医療チェックと適切な衛生管理が重要となります。高齢者における包茎は、単に皮膚の問題ではなく、全体的な健康状態と密接に関連しているため、総合的な医療アプローチが必要です。

編集部

高齢者の包茎に伴うこれらの健康リスクを理解することは、介護者として非常に重要なことのようですね。

野口先生

そうですね。やはり知っているのと知らないのとでは、同じケアをするにしても高齢者ケアでの対応が変わってくるはずです。これにより、高齢者の生活の質を向上させるだけでなく、介護者自身のストレスも軽減されるでしょう。

編集部

実際に介護者はどのような対応、介入を行うことが望ましいのでしょうか。双方でストレスを感じない陰部洗浄の介入方法はあるのでしょうか?

野口先生

タイミングとしては主に入浴時や排泄介助時に陰部を清潔にするのが最適です。特に寝たきりの全介助が必要な方では、排便後が重要です。皮膚の刺激や汚染を防ぐため、パッド交換時に適切な清潔ケアを行うことが大切です。さらに、入浴介助時は最も包括的な清潔ケアが行えるタイミングです。介護者が1人ではなく2人で対応すると、より効率的かつ慎重にケアを行うことができます。2人での対応は、介護者の負担を分散させ、高齢者にもより安心感を提供できます。

編集部

適切な洗浄方法を教えてください。

野口先生

陰部の洗浄には、刺激が少ない泡タイプの石鹸を使用し、優しく洗うことが重要です。強い摩擦や刺激は避け、皮膚を傷つけないように注意してください。洗浄後は、皮膚を優しく乾燥させ、必要に応じて保湿剤を使用することが望ましいです。ウロバッグを装着している高齢者では、バッグの取り扱いや陰部の洗浄に特別な注意が必要です。ウロバッグの接続部分は清潔に保ち、感染リスクを減らすために定期的に点検し、適切に管理してください。

編集部

そのほかにアドバイスがあればお伝えください。

野口先生

高齢者のプライバシーと尊厳を尊重し、ケア中のコミュニケーションを大切にしてください。安心感を提供するためには、ケアの目的と手順を穏やかに説明し、高齢者の意見や不安を聞くことが重要です。また、健康的な皮膚を維持するためには、適切な栄養と水分補給が不可欠です。つまり高齢者にバランスの取れた食事を提供し、十分な水分摂取を促すことが、皮膚の健康を保つ上で効果的なのです。

編集部

これらの対応と介入方法は、高齢者にとって快適で尊厳のあるケアを提供し、同時に介護者のストレスを軽減するのに役立ちそうですね。

野口先生

そうですね。そして、私たちが注目しているのは、「介護包茎手術」という特定の介護ニーズの増加です。近年「介護包茎手術」を望まれる高齢者が増えてきていると感じます。

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