損保のお客さま相談室・元主任が編み出した「悪質クレーマー」撃退フレーズ 3000件超の苦情に対応

損保のお客さま相談室・元主任が編み出した「悪質クレーマー」撃退フレーズ 3000件超の苦情に対応

客による暴言や不当要求などで、働く人の就業環境を害するカスタマーハラスメント(カスハラ)。大手損害保険会社で3000件を超える苦情に対応してきた、東京の社労士・井上久さんは、保険会社時代、ヘッドホンから音が漏れるほどの大声で怒鳴られたこともあるそうだ。

東京都が全国初のカスハラ防止条例の策定に動くなど、カスハラ対策の機運は高まっている。3000件の苦情対応から見えてきた対策の秘訣はなんなのか、井上さんに聞いた。(ライター・国分瑠衣子)

●こじれた案件受ける「最後の砦」

井上さんは2017年4月から2021年3月までの4年間、大手損保の「本社お客さま相談室」の統括主任として、3000件超のクレーム対応にあたってきた。本社お客さま相談室は、顧客らから直接かかってくる電話のほか、全国のコールセンターでこじれた案件も受ける「最後の砦のようなところ」(井上さん)だ。職員は50人ほどで、交代で20人が電話を受けていた。

井上さんによると、苦情の約4割は交通事故でけがをした相手からの電話だ。休業損害の額や治療費の支払期間、対応者の事務的な態度などへのクレームが多かった。「多くは保険会社側の説明不足など正当なクレームでしたが、10件に1件ぐらいの割合で暴言や脅迫などの悪質クレームがありました」と井上さんは話す。

●「会社の企業理念は?」答えられないと怒鳴られ続ける

悪質クレームには、SNSで悪い評判を発信すると脅す、暗に金品や特別待遇を要求する、他社の対応を持ち出す、公的機関に訴えると脅す、土下座など社会通念から逸脱した謝罪の要求などがある。

上記に加え、井上さんが経験したカスハラは次のようなものだ。開口一番「あなたの会社の企業理念は?」など相談内容とは直接関係ないことを聞き、対応者が口ごもると「お前では話にならない、上司に電話を代われ」と怒鳴る。 「俺は昔●●社の部長をしていたんだぞ」といった自分の地位を誇示する人もいた。自分のうっぷんやモヤモヤ、不満を苦情受付係にぶつけているようだった。

「電話の後ろでフェリーが出航するような音が聞こえたことがあるんです。1時間20分ほど文句を言われ続け、後から移動の暇つぶしにされたと気付きました」

井上さんの職場では途中からカスハラ対策マニュアルができ、対応の指針はできたが、メンタルが不調になって職場を離れる同僚もいた。

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