「みんな5回行くから自分も5回」でいいの? 企業と学生が見失っている「インターンシップの正しい姿」

「みんな5回行くから自分も5回」でいいの? 企業と学生が見失っている「インターンシップの正しい姿」

1on1をして少し経ったころ、部下が前兆なしに退職をした…そんな話を聞いたことはありませんか? 若者たちが退職する裏には、彼らの世代特有の悩みが隠れているかもしれません。金沢大学融合研究域融合科学系教授の金間大介氏は、著書『静かに退職する若者たち』にて、若者目線からこの問題に向き合い、上司や先輩の課題に寄り添いました。新卒や第二新卒の入社を控えたいま、世代間における価値観の差や求められるスキルについて考えてみませんか。
※本記事は金間大介著の書籍『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)から一部抜粋・編集しました。

みんなが5回行くから、自分も5回

いろいろな意味で頭が混乱してきたので、ちょっと整理しよう。
ここ数年、インターンシップ参加数は顕著に増加傾向にある。特に大学3年生は、ほぼ全員が参加している状態だ。
その回数は平均5~6回。その多くはワンデーだ。
ここで1つ、データにはないことが気になって、僕の方で少しだけ調査した。
気になったこととは、「なぜ5回なの?」という点。
結果、ほぼすべての回答が次の2点に集約される。
「周りがだいたいそのくらいだから」と、「夏休みの長さとかバイトの関係で、そのくらいがちょうどいいから」。
ちょっと待て、と思う。
本来のインターンシップの目的は、自分の適性を見極めるためとか、自分の能力を伸ばす、あるいは自らの力を試すためにあるはず。
であれば、参加回数もその文脈で語られるべきなのに、誰もそんなことは言わない。例えば、「コミュニケーション力に不安があったので、あえて営業系の5つに絞った」とか、「2つの職種で迷っているので、それぞれ3つチョイスした」とか、そんな理由があってもおかしくないのに。
だが実際のインターンシップは、もはや学生たちにとっての義務であり、ルーチンであると同時に、「早期選考から漏れたら終わる」がゆえのノルマであり、必須のスタンプラリーのようなものと化している。
同級生の多くが5回行くというから、自分も5回。うち1回は長期にしておいた方がいいというから、自分も1回は1週間以上のものを選ぶ。
個人のために設計されたインターンシップなのに、あっという間にベルトコンベアーの様相を呈する。まさに、唯一無二の存在を目指す量産型大学生にピッタリというべきか。

人材募集を「量」から「質」へ
すでにダダ洩れ状態で恐縮だが、ご推察の通り、僕は現在のインターンシップのやり方には極めて批判的な立場だ。
回数だけの問題ではない。
その目的は「いい雰囲気かどうか」が重視され、企業側も学生集めのため「リラックスできる雰囲気作り」に努める。
その内容にも問題は多い。一言で言えば、「キラキラ・ワクワク演出」&「お客様扱い」がすごい。ちょっとでも楽しんでもらおう、満足してもらおうという意図で企画され、実際に学生たちは「あー、楽しかったねー」と言いながら帰路につく。
仕事体験を通して、本当の企業の姿を知る。
学生と接し、学生ならではの目線を通して、自分たちの仕事のあり方を見直す。
という目的はどこへ行った?
企業人事部の皆さん、本当にこれでいいのですか?
そんなに数を集めることが大事ですか?
そんなに満足度アンケートの結果が気になりますか?
皆さんも「何かおかしい」と思いながらやってますよね?
本質を突こうとする以上、文字通り誤解を恐れず、僕も自分の考えをはっきり言いたい。
もうマス狙いのプログラムは意味がないと僕は思う。必要ないとはもちろん言わない。
ただ、どこもかしこも若手人材大募集の今、演出バトルはレッドオーシャン化の一途を辿っている。いまや、このバトルに行政や学校、警察、病院などの公的機関も参入する合戦ぶりだ。
そこで発想を、「量」から「質」へ転換することを提案する。
最低限のマス向けの魅力発信はもちろん大事だ。正確な情報をしっかり公表することもとても大事。よってそれらを継続しつつ、より時間を使って考えるべきは、どうやったらたった1人の共感を得られるか。どうやったら、たった1人の本命と出会えるか。
これを考えてみませんか。
そのときあなたが問われるのは、広報戦略や演出プログラムのスキルではなく、次の質問だ。
あなたは、今の仕事が好きですか?
あなたは、どれほど今の仕事が好きか語れますか? 語っていますか?

学生が本当に向き合うべき企業
学生のみんなにも。
その就職活動は、本当に将来のためになっていますか?
そんなに「サービス」してくれる企業がいいですか?
若手不足の今、企業は大なり小なり「演出」しているだろうこと、薄々わかっているのではないですか?
僕だって、第一印象として、ニコニコ優しくしてくれる人たちの方へ行きたくなる気持ちはよくわかる。でも、それだけではダメなこと、わかっているよね。
そろそろ目を覚まそう。
これはサークルのメンバー募集とは違うのだ。
包み隠さず見せようとする企業こそ、あなたがちゃんと向き合うべき企業だと、僕は思う。キラキラ満載のエンタメ系インターンシップなんて、最低ランクの評価をつけてしまえばいい。
就職活動こそ一期一会だ。どうか、人との出会いを大切に。
表面的な出会いなど、無視してしまえ。エンタメはもうほかの手段で十分足りている。演出された場で得られるものは何もないことを、あなたはもうわかっている。
表面的ではない出会いほど、あなた自身が問われる。
大切な出会いほど、自分に向き合わされる。その時間を大切にしてほしい。

金間大介
金沢大学融合研究域融合科学系教授。東京大学未来ビジョン研究センター客員教授。一般社団法人日本知財学会理事。北海道札幌市生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学経営情報学部、東京農業大学国際食科情報学部、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系、2021年より現職。主な著書に、『モチベーションの科学 知識創造性の高め方』(創成社)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)、『先生、どうか皆の前でほめないで下さい:いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)など。

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