「ゲーム」と「万歩計」が新人育成の理想? 上司や人事が新入社員から期待されていること

「ゲーム」と「万歩計」が新人育成の理想? 上司や人事が新入社員から期待されていること

1on1をして少し経ったころ、部下が前兆なしに退職をした…そんな話を聞いたことはありませんか? 若者たちが退職する裏には、彼らの世代特有の悩みが隠れているかもしれません。金沢大学融合研究域融合科学系教授の金間大介氏は、著書『静かに退職する若者たち』にて、若者目線からこの問題に向き合い、上司や先輩の課題に寄り添いました。新卒や第二新卒の入社を控えたいま、世代間における価値観の差や求められるスキルについて考えてみませんか。
※本記事は金間大介著の書籍『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)から一部抜粋・編集しました。

上司や先輩が何よりも優先して鍛えるべきスキル

本書では、全体を通して何度も「フィードバック」という言葉が登場する。
以下、メッセージを明確にすることを優先に、誤解を恐れず、はっきり述べよう。
日々のコミュニケーション全般を通して、上司や先輩が何よりも優先して鍛えるべきスキル、それがフィードバックだ。
1on1でも、日常業務の中でも、あらゆるシーンでフィードバックは重要な位置づけにある。
まずはデータから。
図表11-1は、一般社団法人日本能率協会「2022年度新入社員意識調査」を元に作成したもので、「(自分たちの)意欲や能力を高めるために、上司や人事へ期待することは何ですか」という設問に対し、部下にあたる人たちが回答した結果だ。

複数項目の中から、上位3つを選択する方式で、横軸に回答者全体の割合(%)をとっている。
結果はご覧の通り、「成果や力量に対する定期的なフィードバック」が断トツの1位にあがる。「ワークライフバランス」や、「キャリア形成」や、「安心な職場」も大事だが、それらを10ポイント以上抑えて、「定期的なフィードバック」がトップに来る。
この結果は、若手人材の研究をしている僕にとってもしっくりくる。いい設問と回答結果だと思う。「ワークライフバランス」や「キャリア形成」、さらに下位項目に該当する「能力開発」や「多様な研修」などは、すべて先輩世代が作ったものだからだ。
そういった、若者にとってある意味で押し付けがましい(あるいは、おせっかいな)概念よりも、「意欲や能力を高めるため」と問われれば、「定期的なフィードバックでしょ」という新入社員の回答は、絶対に記憶に留めてほしい。
日本能率協会のこの設問が秀逸だと思うのは、選択肢を単なる「業務上のフィードバック」ではなく、「成果や力量に対する定期的なフィードバック」としたことだ。
ちなみに、フィードバックに関する素晴らしい書籍はたくさんある。おすすめは中原淳著『フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』(PHPビジネス新書)だ。社内コミュニケーションや社会人のラーニング・プロセスを巡る学術的視点を踏まえた上で、実践でも即通用する提案が含まれている。
以降では、金間なりのアナロジーと理論的視座を交えてお送りしたい。

フィードバックの理想は、「ゲーム」と「万歩計」
フィードバックの理想形はゲームだと思う。
ゲームにはいろいろな種類があるが、やはりコンピュータ・ゲームは最強だ。したがって、現代における最強のフィードバックの使い手は、ゲーム・クリエイターたちではないかと、本気で思っている。
ゲームにはいくつかのタイプがあって、好きなゲームのタイプによってモチベーションのタイプも推測できるというのが僕の持論だ。
例えば、僕は「ドラクエ」が好きだ。というか、ドラクエで育った。身体の3分の1はドラクエでできている(残りの3分の2はガンダムと水泳です)。
当時のグラフィックや音響などは、2023年現在のゲームに比べればお粗末なものだった。それでも、ものすごい数の人たちが夢中になった。つまり、画質や音質などは、ゲームの本質を決める決定要因にはならないということだ。
人はなぜ、そこまでゲームに夢中になるのだろうか?
ゲームをやらない人のために、もう1つフィードバックの理想形を提示しよう。それは万歩計だ。
僕の理解はシンプルだ。万歩計を持つだけで、単なる散歩にアクセントが生まれる。万歩計を持つと、歩行距離や所要時間がわかる。ただそれだけ。
にもかかわらず、もう少し遠くへ行ってみよう、もっと早く歩いてみよう、という風に、歩くことのモチベーションが一段上がる。
歩数を数えてくれる、というたったそれだけのことなのに、なぜ歩く意識に変化が生じるのか。散歩するという行為自体に、歩数のカウントは必要ない。なのになぜ、スマホのアプリとして成立するのか。
類似例をあげるなら、フィットネスジムにあるランニングマシンも同様だ。走行距離や速度計があるマシンとないマシンなら、多くの人は前者を選択する。それはなぜか。
その答えも、やはりフィードバックにある。

金間大介
金沢大学融合研究域融合科学系教授。東京大学未来ビジョン研究センター客員教授。一般社団法人日本知財学会理事。北海道札幌市生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学経営情報学部、東京農業大学国際食科情報学部、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系、2021年より現職。主な著書に、『モチベーションの科学 知識創造性の高め方』(創成社)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)、『先生、どうか皆の前でほめないで下さい:いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)など。

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