初任給に過労死ライン「80時間分」の固定残業代をつける意味 TOKYO BASEの新運用が話題

初任給に過労死ライン「80時間分」の固定残業代をつける意味 TOKYO BASEの新運用が話題

●「無効判断」が出たら莫大な追加コスト

しかし、イクヌーザ事件判例(東京高裁平成30年10月4日。令和元年6月21日上告棄却により確定)は、基本給のうちの一定額を月額80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とする固定残業代の定めを、公序良俗に反し無効と判示しました。

厚労省が発表した認定基準によると、1カ月当たり80時間程度の時間外労働が継続することが脳血管疾患及び虚血性心疾患等の疾病を労働者に発症させるおそれがあることを、その理由としています。

長時間分の固定残業代の定めが無効ということになると、高額に上る固定残業代相当額が時間外手当算定の基礎賃金にそのまま組み込まれてしまうため、支払うべき残業代が非常に高額になります。

残業代を抑制するために採用した固定残業代制が、会社の経営を大きく圧迫するという皮肉な結果になりかねません。

●機械的に「80時間=無効」とは限らないが…

もっとも、イクヌーザ事件判例は、「実際には、長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせること予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合」にはこのような長時間にわたる固定残業代の定めも有効と解される余地があるという含みも持たせています。

イクヌーザ事件の事例では、実際に80時間以上の時間外労働がなされた月が稼働月数の約半数に達していたため固定残業代の定めは無効とされましたが、実際に行わせている時間外労働はほとんど月80時間を大幅に下回っていることを立証できれば、本文にあるような初任給の定めも有効と解される可能性はあります。

しかし、80時間という過労死ラインに達する残業時間を基準とする定めそのものが公序良俗に反するという考え方も成り立ちうるところであり、労務管理に携わる弁護士としては、一定時間の残業について固定残業代制を採用するとしても、厚労省の基準で過労死ラインとはならないとされている45時間を上限とすることをお勧めしたく思います。

【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、2021年9月まで東京労働局あっせん委員。2023年4月より東京労働局労働関係紛争担当参与。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:銀座南法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/

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