森の中で美しい姫がかえるに出会う
昔々、誰のどんな望みも叶ったときのお話。あるところに一人の王さまがいました。王さまには美しいお姫さまがたくさんいたのですが、なかでも一番下のお姫さまはそれは美しい方でした。
さて、お城の近くに深い森があり、その森に生えている古い菩提樹の木の下には綺麗な泉がこんこんと湧き出していました。暑い夏の日のこと、お姫さまはよくその森へ出かけて行って、泉の側に腰を下ろして休みました。そして退屈すると金の鞠を出して遊んでいました。
ある日、お姫さまがいつものように鞠遊びをしていると、つい鞠が泉の中へころげこんでしまいました。お姫さまは鞠の行方を目で追いますが、深い泉の底に沈み、どこに行ったかわかりません。
お姫さまは悲しくなって泣き出しました。そのうち、自分で自分をどうしていいかもわからなくなってしまいました。すると、どこからか声がしてきます。
「どうしたの、お姫さま。そんなに泣くと石までかわいそうだと泣きますよ」
お姫さまが声のする方を見回すと、一匹のかえるがこちらを見ていました。
「金の鞠を泉に落としてしまったからよ」
「もう泣かないで、私が力になりましょう」
「じゃあ、鞠を見つけてくれるの?」
「もし鞠を見つけてきたら、お礼に何をもらえますか?」
「お前の欲しい物なら何でもあげるわ。洋服でも、光る真珠でも、綺麗な宝石でも、金の冠でも」
「いいえ、そういうものはほしくありません。私を友人にしてください。あなたと一緒にテーブルに座り、あなたの金のお皿で食べたり、あなたのグラスでお酒を飲んだり、夜はあなたのベッドのそばで眠らせてくれるなら、水の中から金の鞠を見つけてきてあげましょう」
「ええ、いいわ。金の鞠を取ってきたら、お前の言うとおり、何でも約束してあげるわ」
お姫さまはそう言いながら、心の中では、(かえるのくせに人間の仲間入りしようなんて、本当に図々しいおばかさんだわ)と、思っていました。
さて、水の中に潜ったかえるですが、しばらくすると金の鞠を口に咥えて、ぴょこんと浮かび上がってきました。そして草の上に鞠を置きます。ところがお姫さまは、その鞠を掴むなり、ありがとうとも言わず、走り去って行きました。
かえるは大声で「待ってください、私も一緒に連れて行って」と叫びます。けれども、うしろでいくらかえるがぎゃあぎゃあ言っても聞こえないのか、お姫さまはかえるのことなんか、きれいに忘れていました。かえるは仕方なく、泉の中へ戻っていくのでした。
\ココがポイント/
✅美しいお姫さまが森の中で鞠遊びをしていたら、泉に鞠が落ちてしまった
✅かえるが現れて、鞠を拾ってあげるという
✅かえるはそのお礼にお姫さまと同じように食事をし、眠りたいと願い出た
✅かえるが鞠を拾い上げると、お姫さまは何も言わず鞠を持って去っていった
かえるがお姫さまのいるお城にやってくる
その翌日。お姫さまが王さまや家来たちと一緒に、金のお皿でご馳走を食べていると、外で誰かが大理石の階段を上がってくる音がしました。そして、戸をとんとん叩いて「お姫さま、いちばん下のお姫さま、どうぞこの戸を開けてください」という声がしました。お姫さまが行って戸を開けますと、そこには昨日のかえるがいます。お姫さまはぎょっとして戸を閉めると、知らん顔で席に戻りました。
でも心配で心配で、お姫さまが胸をどきどきさせているのを、王さまは見ていました。
「姫よ、何をびくびくしておいでだい。戸の外に鬼でもいたのかい」
「違うの、気味の悪いかえるが来て」
「そのかえるが、お前にどうしようというのだね」
「お父さま、それはこういうわけなのよ」
お姫さまは昨日起こったことを王さまに説明します。そのとき、また廊下の戸をとんとん叩く音がしました。王さまは言いました。「それはお前がいけないね、約束は守らなくては。さあ、早く行って開けておやり」
お姫さまは渋々、戸を開けました。するとかえるはぴょんと飛び込んできて、椅子のところまでやってくると、「私もその椅子に上げてください」と言いました。お姫さまは仕方なく、かえるを椅子に乗せてやりました。
するとかえるは、「どうぞ私を、テーブルの上に乗せてください」と言います。お姫さまがかえるをテーブルに乗せてやると、今度は「その金のお皿を私の方に寄せてください。そうすると二人一緒に食べられるから」と言うので、お姫さまはそのとおりにしてやりました。
かえるは食べ終わると、「おなかいっぱいで眠くなった。お姫さま、私をあなたのお部屋に連れて行ってください。あなたの絹のベッドの中でゆっくり眠りたい」と言います。お姫さまはついに、我慢できなくなって泣き出しました。触るのも気味が悪いのに、自分のきれいなベッドで眠りたいと言われ、お姫さまが悲しくなるのも無理はありません。
するとまた王さまが「泣くことがあるか。困っている時に助けてくれた者に、後で知らん顔するのはいけないことだよ」と言いました。お姫さまは気味悪そうに、指先で蛙をつまみあげて上のお部屋まで持っていくと、そっとすみっこに置きました。そして自分だけベッドに入りました。
するとかえるは、ベッドに上げてくれないと王さまに言いつけると言います。怒ったお姫さまはかえると掴み上げると、力いっぱい壁に叩きつけてしまいました。
ところが、かえるは床の上に転げた途端、美しく優しい目をした王子になっていたのです。
\ココがポイント/
✅かえるが王さまやお姫さまのもとへやってくるが、お姫さまは気味悪がって無視しようとする
✅王さまはお姫さまに「約束は守らないといけない」と教える
✅お姫さまはかえるを壁にたたきつけてしまう
✅かえるは美しい王子の姿に変わった
配信: マイナビ子育て