厚生労働省は、「日本国内における2023年のHIVの新規感染者数が7年ぶりに増加した」と明らかにしました。この内容について郷医師に伺いました。
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監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。
厚生労働省が発表した内容とは?
厚生労働省が発表した内容について教えてください。
郷先生
厚生労働省は、全国の保健所や医療機関などでHIVへの感染が確認された人が速報値で960人と明らかにしました。この人数は2022年と比較して76人多く、7年ぶりに新たな感染者数が増加したということです。感染者のおよそ3割が「エイズ(後天性免疫不全症候群)」を発症していました。また、感染経路については、同性間の性行為による感染が66%、異性間の性行為による感染が14%となりました。
今回の感染者数の増加については、新型コロナウイルスの影響で検査数が少ない状況が続いていたことを厚生労働省が指摘しています。実際、2023年の検査数は2022年より約3万3000件多い約10万6000件となっていました。厚生労働省のエイズ動向委員会は「保健所などでの無料、匿名の検査を積極的に受けてほしい」と呼びかけています。
今回の研究が実施された背景は?
今回、感染者数が発表されたHIVについて教えてください。
郷先生
HIV(Human Immunodeficiency Virus)は、日本語で「ヒト免疫不全ウイルス」と呼ばれています。免疫に大きな役割を果たしているTリンパ球やマクロファージなどに感染するウイルスで、大きく「HIV1型」と「HIV2型」に分けられます。
HIVの主な感染経路は性的感染、血液感染、母子感染です。現時点でHIVを体内から完全に排除できる治療法はありませんが、抗HIV薬によってウイルスの増殖を抑え、エイズの発症を防ぐことができます。抗HIV薬を服用することで、長期間にわたり健康な状態と変わらないような日常生活を送ることができるので、HIV感染が判明したらできるだけ早い段階で抗HIV療法を開始することが推奨されています。ただし、抗HIV薬はきちんと飲み続けないと、HIVが薬に対して耐性を獲得してしまい、薬が効かなくなってしまいます。ひとたび治療を開始したら、原則として治療を継続する必要があります。
配信: Medical DOC