●留置施設の「ノーブラ問題」で着用申し入れ→警察組織全体を動かす
2017年に合格し、司法修習を終えたのが2018年。貴谷弁護士がまず、刑事事件・少年事件を扱おうと門を叩いたのは、刑事事件に力を注ぐ「街弁」だった。
「第一志望」だった法律事務所に入所し、「京都アニメーション放火殺人事件」の被告人を弁護した遠山大輔弁護士のもとで「刑事弁護」を叩き込まれたという。
とりわけ法廷での立ち居振る舞いについては丁寧に教わり、「裁判員に高い関心を持ってもらうような言葉」を意識させられたという。
「遠山弁護士からは『法廷の貴谷弁護士はノイズは少ないが面白みも少ない』と指摘されました。無駄に腕を組んだり、『えーっと』など意味のない”ノイズ”はみられないけど、裁判員を引き込むような声の抑揚や速さが足りず、単調に喋りがちだと。今でも私にとっての課題です」
およそ5年間で独立し、現在の事務所を23年に開業。共同代表の1人もまたツイッター経由で知り合った。
ここでは刑事弁護にも力を注ぎながら、離婚や相続などの家事事件も取り扱うスタイルは踏襲し、加害者・被害者の相談に親身に応じている。やはり見過ごすことができないのは、置き去りにされがちな加害者の人権だ。
2023年10月、京都府警中京署に勾留されていた10代の女性被疑者が留置施設内でブラジャーやブラトップの着用を禁じられたことを知った。面会した女性は恥ずかしさから、接見でも腕を前で組んで話した。
「恥ずかしければ胸を張って取調べを受けられないし、弁護士との接見でも不都合があります」
貴谷弁護士はブラトップの差し入れを認めなかった同署の署長や京都府警本部長などに着用の許可を申し入れ、ついにこれを認めさせた。
大阪府などブラトップの着用を認めていた自治体もあったが、全国的には珍しく、運用も徹底されていなかったようだ。その後、警察庁は23年12月19日付で「カップ付き女性用肌着の使用について」との通達を全国の警察に出し、伸縮性がない半袖Tシャツ型のブラトップを留置施設などでの着用を認めた。
「ただ、今年1月には大阪の留置施設でスポーツブラの着用が認められず、基準も教えてもらえないという事件がありました。通達が出されても、基準の周知が徹底されていなかったようです。
また、何が着けられて、何が着けられないのか、警察側もよく理解できていないのではないでしょうか。半袖ブラトップは寒い時期には手に入りにくい事情もあり、基準の見直しも考える必要があるかと思います」
この「ブラトップ問題」に限らず、被告人が法廷で弁護人の隣に着席させる措置を求めて定期的に申し入れをしている。
「法廷での口頭のやりとりに理解が追いつかない被告人もいらっしゃいます。当事者が置いてけぼりにならないためにも、疑問があれば弁護士が横で適切に支える必要があります」
担当する刑事裁判では、被告人の手錠腰縄姿が裁判員や傍聴席に晒されない措置とともに、着席措置を事前に申し入れており、裁判官によっては許可されることもあれば、認められない場合もあるという。
中学時代に夜の街を歩いていたころ、「要領の悪い子ばかり捕まる」と感じた疑問は今も弁護士活動の根底にあるようだ。
弁護士の夫との間に2人の子をもうけ、私生活も充実した日々を送る。
「4歳の子は警察官になるのが夢と言うので、『ちゃんとたくさん勉強してご飯食べないと警察官になれへんで』と教えています。警察官がいるからこそ、私たちも安心して弁護士やれてるところがありますからね」
【取材協力弁護士】
貴谷 悠加(きたに・ゆうか)弁護士
島根県松江市出身。島根県立松江北高等学校卒業後、大阪市立大学法学部に入学。2015年大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻を2015年に修了し、2018年に弁護士登録(修習71期)。京都弁護士会所属。戸田・遠山法律事務所での活動を経て、2023年にKollectプラス法律事務所設立。共同代表。
事務所名:Kollectプラス法律事務所
事務所URL:https://kollect-plus.jp/
配信: 弁護士ドットコム