「肺がんのステージ4」の症状・余命・生存率はご存知ですか?医師が解説!

「肺がんのステージ4」の症状・余命・生存率はご存知ですか?医師が解説!

Medical DOC監修医が肺がんステージ4の症状や余命・生存率・検査法・治療法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

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監修医師:
稲尾 崇(医師)

2011年大阪大学医学部医学科卒業。天理よろづ相談所病院初期研修医、同呼吸器内科後期研修医・医員を経て2020年より神鋼記念病院呼吸器内科医長。資格は日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、日本内科学会総合内科専門医・認定内科医。所属は日本内科学会、日本呼吸器学会、日本呼吸器内視鏡学会、日本肺高血圧・肺循環学会、日本肺癌学会、日本結核・非結核性抗酸菌症学会。

「肺がん」とは?

肺がんとは肺から発生したがんで、がん組織のタイプにより主に「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」に分けられます。喫煙は肺がんを発症しやすくなる大きな要因です。他にもアスベスト(石綿)、副流煙や排気ガスへの曝露、特発性肺線維症(IPF)の既往なども肺がんのリスクを高める要因とされています。特に喫煙は小細胞肺がんと非小細胞肺がんの一部である扁平上皮がんに強く関連しています。肺がんのステージ4とは、がん細胞が血流やリンパの流れに乗っており、手術や放射線による根治するための治療が行える範囲を超えて広がってしまった状態を指します。従来、予後が良くない状態でしたが、非小細胞肺がんのステージ4においては、がん細胞の遺伝子の変化に基づいた分子標的薬による治療や、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療の進歩により、予後が改善してきています。また小細胞肺がんでも従来の抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療法により、まだ多くはないものの数年単位で薬剤が効く方が現れています。このページでは肺がんのステージ4について解説します。

肺がんステージ4の症状

まず初めに、以下にお示しする症状が出ているからといって必ずしも肺がんのステージ4が疑われるとは限りません。他の病気でも同じような症状が出ることはありますので、まずはかかりつけ医を受診し説明をよく聞いてください。もし肺がんの可能性が指摘された場合は、総合病院の呼吸器内科宛てに紹介状を書いてもらい、専門的な検査を受けることをお勧めします。肺がんの症状は、治療を円滑に進めたり生活の質(QOL)を向上させたりするためにも、なるべく早い段階から緩和することが勧められます(緩和治療)。以下には一般的な症状緩和の方法を説明しますが最良の方法は患者さんの状態により異なりますので肺がんに関する診察を受ける主治医とよく相談してください。

咳、息切れ、血痰

咳、息切れ、血痰は代表的な症状の一つです。腫瘍が空気の通り道(気道)に影響を与えて咳が出やすくなったり、空気の出入りがしづらくなったりすることで起こります。また、がん細胞が肺内のリンパの流れに乗ることで同様の症状がおこることがあります(リンパ管症)。さらに、肺と胸壁(肋骨や肋間筋など息をするときに動く部分)の隙間である胸腔に水がたまって肺が圧迫され、起こることもあります(胸水)。また首や顔のむくみとともに息切れが起きている場合、上半身から心臓に向かう血液が流れる上大静脈が腫瘍や転移して腫れたリンパ節で圧迫されている可能性があります(上大静脈症候群)。
抗がん剤でがんが縮小すれば症状が和らぐこともありますが、しばしば不十分であり、咳止め(デキストロメトルファン、ジモメルファンリン、リン酸コデインなど)や医療用麻薬(モルヒネやそれに類するもの。オピオイドと呼ばれる。)が併用されます。また血痰に対しては止血剤の内服や点滴が考慮されます。大量の胸水に対しては胸水をたまりにくくするために胸膜癒着術と呼ばれる処置が勧められることもありますが、行えるかどうかは体調と病状によります。安静にしたり体の向きを工夫したりすると症状が軽減することもありますが、同時に薬をうまくつかって症状を和らげ、通常に近い生活を続けることも大事です。そうすることで日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を維持することにつながります。

骨の痛み

肋骨や背骨、腰骨、大腿骨などへの骨転移、胸壁への浸潤(肺がんが胸壁に食い込むこと)によりそれぞれの部位に痛みを生じることがあります。骨格の痛みだと初めは整形外科を受診する方も多く、そこでがんの転移による痛みが疑われ、後日胸部のCTなどで肺がんが判明します。しかし、前述のように咳や息切れも伴っているときは、整形外科と同時にかかりつけ内科も受診し、肺がんの可能性がないか相談しはじめてもいいでしょう。骨転移の痛みには、痛みを和らげる薬として、NSAIDs(ロキソプロフェン、セレコキシブ、ナプロキセンなど)と医療用麻薬を併用することが多いです。また、骨転移の痛みをやわらげる、進行を遅らせる、転移部の骨折を予防する、などの目的で、部分的に放射線を照射することもあります(緩和的放射線照射、姑息的放射線照射)。特に、背骨のすぐそばを走る太い神経である脊髄が転移により圧迫されているときは、比較的急いで放射線照射の相談を始めます。他に月1回の皮下注射や点滴で骨転移の進行を抑えることもあります。また自分なりに、痛みの小さい体の動かし方を工夫しながら日常生活を送ることで、体力の維持につながります。

手足の麻痺や、しゃべりづらさなど

肺がんが脳に転移すると、いくつかの症状が現れる可能性があります。嘔気やめまい、手足が動かしにくい、他人の言葉がうまく理解できない、言いたい言葉が言えない、けいれんする(症候性てんかんと呼ばれる)などが起こることがあります。これらの症状では、脳卒中を心配し、脳神経内科や脳神経外科を受診される方も多いです。そちらで脳転移の可能性があると指摘され、後日胸部の画像検査などで肺がんが判明します。治療では、部分的な放射線照射(ガンマナイフなど)や脳全体への照射(全脳照射)が検討されます。また転移の周囲が腫れて症状が強いときは(脳浮腫)、ステロイドの点滴で脳浮腫を和らげる治療も選択肢です。脳への放射線照射では一時的に嘔気や船酔いのような感覚(宿酔)、皮膚炎が出ることや、症候性てんかんが現れることがあります。また全脳照射では、脱毛と数か月後に認知機能の低下が起こりえます。なお症状が軽いときや抗がん剤治療で脳転移が小さくなる可能性がある方は、脳への放射線治療よりほかの治療を優先することもあります。脳転移があると急にけいれんをおこすリスクがゼロでないことから、車の運転は中止するよう勧められます。

数か月にわたる体重減少や持続的な食欲低下

数か月にわたる体重減少や持続的な食欲低下は、医師が悪性腫瘍などを疑うきっかけとなる重要な症状です。このような症状があれば、必ずしもがんとは限りませんが、まず地元のかかりつけ医によく相談してください。肺がんが疑われれば呼吸器内科、胃腸や肝臓・膵臓のがんが疑われれば消化器内科、血液系の悪性腫瘍が疑われれば血液内科、などとそれぞれの専門科に紹介されます。かかりつけ医の診察に加え全身の画像検査などの追加精査が必要な場合は、一旦総合病院の一般内科や総合内科などに紹介されることもあります。症状の原因となる病気を治療するのが症状を和らげるために最も大切ですが、ステージ4の非小細胞肺がんでは抗がん剤治療を行う際、肺がん自体による食欲低下や体重減少を防ぐためにアナモレリンという薬物を併用することがあります。

口の渇きや飲水量の増加など

進行が速いタイプなどの肺がんでは、血中のカルシウム値が大きく上昇することがあります。その際に起こる症状は、口の渇きや飲水量の増加、尿量の増加、食欲低下、そして意識障害などです。血中のカルシウム値が高値であることから肺がんの可能性が疑われ検査で判明します。速やかに総合病院の呼吸器内科に紹介してもらい精査の必要性を相談しましょう。血中カルシウム値を下げるための点滴が行われることがありますが、がん自体の勢いを抑える治療が最も重要です。血中カルシウムを下げる点滴の副作用としては、発熱による衰弱、骨の痛みに加え、まれながら顎の骨の腐食が起こりえます。肺がん自体の治療が行き詰まり、かつ意識障害によって肺がんに伴う苦痛が和らいでいる方では、敢えてカルシウム値を低下させない判断が勧められることもあります。

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