●子どもは本当はかけ算が大好き! なのに…
「子どもはもともと九九もかけ算も大好きなんですよ!」と、上村先生。子どもは好奇心旺盛なので、九九を覚えられたらとても便利だということも頭ではわかっているというのです。にもかかわらず、九九が覚えられくなってしまう最大の原因は、やみくもな「暗唱」にあると指摘します。
「たとえば、大人だってお経を丸暗記しろと言われても意味がわからなければ覚えられませんよね。それと同じです。子どもだって九九の意味がわからなければ覚えられません。そして歌詞を丸暗記して歌うように、意味もわからないまま九九を丸暗記すると、間違って覚えてしまうこともあります。でも間違いを指摘されても、意味を理解していないからどこが間違いなのかわからない。わからないから苦手になってしまい、ますます覚えられなくなってしまうのです」(上村氏 以下同)
だからこそ、子どもに九九を覚えさせるには、その意味についてまずは教えてあげなければいけないのだ、と上村先生はいいます。ただし、その意味の教え方についても注意すべき点が。
「たとえば、2×3=6というかけ算を子どもに教えるとき、2+2+2=6と計算するより便利な方法としてかけ算があると教えてしまうのは危険です。
『りんご1人に2こずつ3人に配ると、りんごは 全部で( )こです。』という問題を例に考えてみましょう。
1あたりの数(2こ)と、いくつぶん(3人)がわかっているとき、全部の数を求めるのに (1あたりの数)×(いくつぶん)=(全部の数)で求めます。正解は2×3=6こです。
このとき、りんごが 2+2+2 =6こ というたし算(累加)で求めてはいけません。答えは合っていても計算式は間違いです。また累加する考え方ではこのあと学習することになる『×0』、や 『×小数』の計算は成立しないので、子どもを混乱させてしまいます」
そしてもうひとつ、なかなか九九を覚えられない原因があるそうです。それは教科書で学ぶ順番にあるといいます。
「現在、多くの教科書課程は、かけ算九九を勉強したあと、その応用として簡単なわり算や分数を学び、その後、(2 ケタ)または(3 ケタ)×(1 ケタ)のかけ算に進むという順番になっています。その学習法でついていける子ならば問題はありませんが、かけ算を覚えられない子の場合、理解できていない状態でかけ算の勉強を中断することになるので、ここでもかけ算九九をじっくり覚えるチャンスを失ってしまうのです」
● 2×0と0×2の違いって? 苦手な子でも楽しんで覚えられる方法
では、子どもにかけ算の意味について、どう教えたら伝わるのでしょうか。上村先生によれば、「1あたりのもの」について考えるように導いてあげるといいそうです。その方法は?
「たとえばウサギには長い耳が2つありますね。ウサギが2匹いれば長い耳は2×2=4本、3匹いれば2×3=6本、4匹なら2×4=8本、というように教えていくのです。次に、今度は虫を例にあげます。虫には羽が4枚あって、2匹いたら4×2=8枚になります。このとき、2つ耳のあるウサギが4匹いた場合の2×4=8と、4枚の羽の虫が2匹いた場合の4×2=8とは、答えは同じ『8』であっても、その意味が違うことがわかることになります。まずは、その違いから学んでいかないと、九九を意味もなくただただ暗記するだけのことになるというわけです」
もう一つ、2×0と0×2の違い、子どもにどう教えたらいいのでしょうか? 正解は…
「2×0も、0×2も、どちらも0をかけるのだから0になる、と教えるのはおすすめできません。そうではなくて、まず、2×0=0の場合。2本の耳をもつウサギがいなければ、つまりウサギが0匹ならば、その耳も0だと教えてあげるのです。反対に0×2=0の場合は、ペンギンを例に挙げてみるといいですね。ペンギンにはおへそがありません。だからおへそは0。だからペンギンが2匹いてもおへそは0です。九九を暗記させる前に、この違いをしっかり理解させてあげることが大切です。それがかけ算の意味を覚えるということなのです」
算数が苦手なママや、教えるのが苦手なママでも、これなら子どもに教えやすいですよね。九九をなかなか覚えられない子には、教科書の学習とは別に、家庭での学習のサポートが大切だと上村先生はいいます。かけ算の基本さえ理解できれば、九九のマスターまであと一歩! これを機会にママも苦手意識を克服して、子どもと一緒に勉強してみるのもいいかもしれません。
(取材・文/中村さと)