●羽毛ふとんとダウンジャケットで肺炎に
都内に住む上野喜美子さん(仮名・68)は、自宅にある羽毛布団や夫が愛用していたダウンベストなど、羽毛製品がきっかけで、鳥によるアレルギー性肺炎を発症しました。
上野さんは、ある日突然、咳と息切れに苦しむようになったのです。糖尿病のかかりつけ医からせき止めを処方されますが効果はありません。そこで、呼吸器内科を専門とする池袋大谷クリニックを訪れ、鳥によるアレルギー性の肺炎だと判明しました。同クリニック院長の大谷義夫医師がこう振り返ります。
「自宅にある羽毛製品はすべて処分してもらいました。ふつう、羽毛製品だけで症状が出ることはめったにありません。しかし鳥を飼っていたり、ハトが自宅近くに集まるなど、鳥のフンや羽根に含まれる抗原に長い間接していると抗原に対して免疫ができます。その結果、肺の内部でアレルギー性の炎症が起こり、肺炎になるのです」
上野さんは、鳥の飼育歴はありません。なぜ発症したのでしょうか。
「自宅周辺は昔からハトが集まる環境でした。フンだらけの場所もあります。子どもが小さい頃はよくハトがたくさんいる公園で一緒に遊んでいたので、それが原因かもしれません」(上野さん)
海外では、自宅で放し飼いにしていた家庭で子どもが発症したり、ハトのフンを掃除していたママと子どもたちが発症した例もあります。重症化すれば、死に至る患者さんも少なくないといわれる鳥によるアレルギー性肺炎とは、いったいどのような病気なのでしょうか。
東京医科歯科大学病院で調査・研究に携わっていた大谷医師によれば、昔はハトやオウムをペットとして飼う人に発症する「鳥飼病」として報告されていたそうです。
「近年、わたしたちの生活において羽毛布団やダウンジャケットが身近になり、それをきっかけに大学病院でも患者さんを対象に羽毛製品を使用しているかなどの調査を始めたのです。その結果、羽布団やダウンジャケットに反応する人がいることがわかりました」
●満員電車は避け、外出時にはマスクを
では、国内ではどのくらいの患者さんがいるのでしょうか。上野さんのように「かぜ」だと思い込むといった自覚症状のない人もいます。そうした潜在患者を含めると、推定で数千人。ですが今のところ正確な統計はありません。大谷医師がその背景を説明します。
「専門的な知識と臨床経験を持つ医療機関が全国でも少ないためです。『原因不明の肺炎』と診断され、本当の患者さんの数が埋没しているのが現状です。ふつうの医師であれば問診と画像診断で肺炎だということはわかります。しかし、鳥によるアレルギー性の肺炎だと、一般のお医者さんが見抜くのは難しいと思います。呼吸器科の専門医師でも、患者さんに鳥の飼育や羽毛布団の使用の有無を確認することはあまりないからです」
東京医科歯科大学には、ほかの医療機関からたくさんの患者さんが転院してくるそうです。驚いたことにその4割が以前の担当医より、「原因不明の肺炎」と診断されていたのです。鳥によるアレルギー性の肺炎だと気づかずに、苦しんでいる患者さんは少なくないと考えられます。いったん発症すると、わずかな鳥の抗原でも悪化することがあるからです。そこで大谷医師は患者さんにはこう指導しているといいます。
「外出時はマスクをつけるように。また、冬はダウンジャケットを着た人が増えるので、電車など人混みは避けてもらうようにしています」
春になり、暖かな日も増えてきました。ママは歩きはじめのお子さんと公園にお出かけする機会も増えるでしょう。公園には鳥の羽根やフンもあります。1歳から3歳頃の子どもは好奇心旺盛な時期。くれぐれも子どもが素手でハトのフンを触ったりすることがないようにしっかり様子を見てあげることが、対策の一歩になるのです。
(取材・文/永井貴子)