【鳥アレルギー性肺炎】日常に潜む8つの抗原スポット

第3回 【鳥アレルギー性肺炎】
鳥が原因で起こるアレルギー性の肺炎をご存じでしょうか。国内では、まだあまり知られていない病気ですが、海外では10歳前後の子どもの発症例も報告されているのです。そこで、少しでも発症リスクを減らすために、危険な8つのスポットを紹介します。



●わが子同然のインコで命の危険に

都内に住む藤村政代さん(仮名・70)は、マメルリハという小型のインコをわが子のように可愛がっていました。10年ほど前から、親鳥が産む卵を自宅でふ化させては、つねに10羽近くと暮らしていました。ところが2年ほど前から、ひどいせきに悩まされるようになります。自宅はマンションの2階。わずかな距離の階段さえ、息が切れます。あまりの苦しさに、呼吸器科を専門とする池袋大谷クリニックを受診。鳥のアレルギーによる肺炎と診断されました。同クリニック院長の大谷義夫医師が説明します。 

「すでに重症化しており、肺の線維が硬くなる肺線維症が見られました。処置が遅ければ命の危険性もありました。国内の患者さんは中高年が主です。しかし海外では、インコを放し飼いで飼っていた家庭の子どもが発症したという報告がいくつもあがっています」 

わたしたちが知っている一般的な肺炎は、細菌やウイルスが原因のもの。肺でウイルスなどが増殖して炎症を起こす感染症です。しかし、カビや鳥の抗原によるアレルギー性の肺炎(肺の炎症)も存在します。鳥の肺炎は、花粉症と同じように鳥が持つ抗原を繰り返し吸入することで、肺の組織にアレルギー性の炎症が起こるというのです。 

「抗原は、鳥の羽根に付着するものや鳥のフンに混じるものがある。後者の抗原は、より悪さをします」(大谷医師、以下同)

大谷医師の前の職場は、東京医科歯科大学の呼吸器科。同大学病院では鳥をはじめとするアレルギー性肺炎の調査・研究に力をいれています。そこで元研究メンバーである大谷医師に、鳥のアレルギーを引き起こしやすい8つの環境について教えてもらいました。

【鳥アレルギー性肺炎】日常に潜む8つの抗原スポット

●鳥で肺炎に!危ない8つのスポット

1) ペットの鳥を飼う

リスクが最も高いのが、インコやオウムなど鳥を自宅で飼うことだといいます。つまり、子どもが羽根やふんに含まれる抗原を家の中で24時間吸い込むことになるので注意が必要です。

2) 庭やベランダで野鳥の餌づけ

子どもへの情操教育と考えて庭やベランダで野鳥の餌づけをするママもいるでしょう。しかし、フンや羽根が舞うので抗原への接触率が高くなります。

3) 鳥のはく製

ウイルスや細菌による肺炎とは異なり、アレルギー性の場合は、原因が抗原です。ウイルスや細菌のように死滅するということがないので、すでにはく製になっている鳥でも羽根に付着するたんぱく質に抗原は含まれています。

4) 近所にハト小屋がある 

自宅の裏に建てられたハトの飼育小屋が原因で、発症した患者さんの中には引っ越しを余儀なくされた人もいるとか。いまもハトレースの人気は高く、愛好者は全国でハトを飼育しています。郊外では大型の飼育小屋も健在。東京23区内でも、民家のベランダに小型の飼育小屋を設置している愛好者は少なくありません。小型の小屋は、外から発見するのが難しいですが、見かけたら対策が必要になります。

5) ハトにエサをあげる。フンを掃除する 

大谷医師が担当した患者さんの中に定年退職後、公園で掃除のボランティアを長年続けていた高齢の男性がいました。体調が悪くなり病院に来たときには、すでに肺胞の壁が硬く線維化していました。もともと肺は、呼吸をするためにスポンジのように軟らかい組織です。それが硬くなれば呼吸は十分にできず苦しくなるわけです。その男性は間もなく亡くなったそうです。大谷医師がこう警鐘を鳴らします。

「私の患者も何人も命を落としています。けっして甘く見ないでください」

6) 家庭菜園で鶏ふん肥料を使う 

子どもに安全な食材を食べさせたい、と家庭菜園をするママもいるでしょう。しかし鶏ふん肥料には、抗原がたっぷり含まれているので使用は控えたほうがいいでしょう。

7) 羽毛ふとん、ダウンジャケット 

幼いうちからダウンジャケットを着せたり、羽毛ふとんを使う家庭が増えています。羽毛製品の抗原量はそれほど高くなく単独で発症する人はまれです。というのも抗原が含まれている「ブルーム」は、時間の経過とともに付着した羽毛から取れてゆくためです。

とはいえ、過去に飼育歴やハトの多い環境にあるなどたくさんの抗原にさらされている環境にある場合は気をつけてください。羽毛製品をきっかけに発症する人も。

「新しい羽毛ふとんに買い替えたとたん、症状が出た患者さんもいます。大学病院の勤務時代に、担当した患者さんを対象に統計をまとめたことがあるのですが、鳥アレルギー性の肺炎を発症した患者さんのうち、65%が羽毛ふとんを使用していたのです」 

8 羽毛を使った製品

仏壇の掃除に使う羽ぼうきや、高級車の掃除に用いるダチョウの羽根でつくられたはたきで発症した例もあります。

いまの子どもたちは、幼少時から多くの羽毛製品に囲まれて暮らしています。まだまだ未知数の病気だけに、子どもへの影響が明らかになるのはこれから。だれもが発症する病気ではありませんが、2週間以上せきが長引くなどの症状が続いたら、すぐに専門の医療機関を訪ねましょう。可愛いわが子を守るために、今すぐママができることはたくさんあります。

(取材・文/永井貴子)

お話を聞いた人

大谷 義夫
大谷 義夫
池袋大谷クリニック
池袋大谷クリニック院長。群馬大学医学部卒業後、東京医科歯科大学呼吸器内科局長、同大学睡眠制御学講座准教授、米国ミシガン大学留学を経て現職。 日本呼吸器学会呼吸器専門医、指導医。日本アレルギー学会専門医、指導医。 新聞やテレビなどメディア出演、TV番組の監修も多数。呼吸器科のスペシャリストとして知られる。
池袋大谷クリニック院長。群馬大学医学部卒業後、東京医科歯科大学呼吸器内科局長、同大学睡眠制御学講座准教授、米国ミシガン大学留学を経て現職。 日本呼吸器学会呼吸器専門医、指導医。日本アレルギー学会専門医、指導医。 新聞やテレビなどメディア出演、TV番組の監修も多数。呼吸器科のスペシャリストとして知られる。