子どもがひとりのうちは感じなかったのに、下の子ができてから、気づくと「上の子がかわいくない」と感じるようになり、思い悩むママはときどきいるよう。
ネット上でも同様の悩みが多数見られ、そうした状態は「上の子かわいくない症候群」などと呼ばれてもいるらしい。こうした現象は、いったいなぜ起こるのだろうか。
「きょうだい型人間学」の第一人者で、国際基督教大学教養学部社会心理学教授、心理学・言語学デパートメント長の磯崎三喜年先生に聞いた。
「そもそも昔はきょうだいが多かったので、1番上と3人目同士、3人目と5人目同士など、いろんな組み合わせの結婚がありました。なので、きょうだいの上下を意識することがなかったんです。でも、今はきょうだいが少ない中で結婚し、少ない人数の子育てをするので、『上の子と下の子』の違いを母親が感じやすいことはあるかと思います」(磯崎先生)
「上の子がかわいくない」と感じる理由のひとつには、下の子が生まれると、「赤ちゃん」との比較において、今まで思っていたよりもかわいくないと感じることがあるのではないかという。
「ドイツの比較行動学の研究者、コンラート・ローレンツによると、赤ちゃんには『額が広い』『顔の下半分に大きな丸い目がある』など、見た目として無条件に『かわいい』と思わせる特徴があるそうです。それは、大人にとって『かわいい』『保護したい』という気持ちを無条件に起こさせるもので、ごく自然なことなのです」
親としては上の子と下の子を比べている意識はなくとも、成長によって、上の子に「赤ちゃん」的な特徴がなくなってくると、自然と「保護したい」という無条件の肯定感が減ってきてしまうのではないかという。
●第二子の場合、精神的余裕から「かわいい」という感情を受け入れやすい
また、もうひとつには、子育てに関する慣れの感覚の違いがあるという。
「第一子のときには緊張感や期待が大きい一方で、赤ちゃんの夜泣きなど、今まで経験のない、理屈では理解できない言動に苦労するお母さんが多いもの。しかし、第二子になると一度経験しているだけに、緊張が和らぎ、心理的余裕を持てるので、無条件に赤ちゃんのかわいさを受け入れやすいのです」
第一子のときの「緊張感」が、第二子のときには慣れによって「安心感」に変わり、余計な力が入らなくなって、本来赤ちゃんが持っている「かわいさ」をすんなり受け入れられるようになる場合がある。
それに対し、上の子に接するときには精神的余裕がなかっただけに、「かわいい」という感情も十分に感じられないまま、下の子ができたときに「上の子はかわいくない」と思ってしまう可能性があるそうだ。
「しかし、それで自分はダメな母親だと思ったり、自分を責めたりする必要はありません。赤ちゃんをかわいいと思うのは自然な感情ですし、上の子には下の子よりもじっくり時間をかけて接したり、目をかけてきたりしたことが多いはずです」
ママの育児経験値の違いもあり、上の子と下の子とで、接し方が異なるのは当たり前。それを過剰に心配する必要はないようだ。
(田幸和歌子+ノオト)