トラブルが生じやすい例としてよく聞くのは、いわゆる「マルチ商法」と呼ばれる販売形態だ。
マルチ商法とは、例えば商品を販売する会員になり、さらにほかの人を入会させればお金がもらえるなどとして新規会員を誘い、その新規会員に商品を販売するものだ。その新規会員がさらに別の会員を勧誘するという連鎖により、組織は拡大することになる。この商法では化粧品や美容グッズ、健康食品など、女性が高い関心を持つ商品を多数取り扱っていることもあり、ママ世代は恰好のターゲットとなってしまうこともあるよう。
もしマルチ商法による勧誘に困ったり、うっかり必要がない商品を購入してしまったりしたら、私たちはどう対処すればいいのだろうか? 国が設立した法的トラブル解決のための総合案内所である「日本司法支援センター(通称:法テラス)」に話を伺った。
●マルチ商法それ自体は違法ではない
「マルチ商法という言葉は広く知られているようですが、法律上の言葉ではありません。マルチ商法と呼ばれるような取引は、一般的には、特定商取引に関する法律(特定商取引法)が定める『連鎖販売取引』に当たると考えられていて、むしろこの『連鎖販売取引』に当てはまれば、どんな呼び名のビジネスでも法律上の規制をうけることになるのです」
こう話すのは、日本司法支援センターの村山勇輔弁護士。最近では「ネットワークビジネス」や「MLM」という呼び名でマルチ商法やそれによく似たビジネスの勧誘を行うケースもあるという。その場合は「ネットワークビジネスはマルチ商法とは違うから」と説明される場合もあるかもしれないが、連鎖販売取引に当たれば、結局はマルチ商法と同じ規制を受けるのだ。
村山さんによると、意外なことに「マルチ商法などと呼ばれる連鎖販売取引そのものが違法になったりするわけではない」という。
「特定商取引法は『誇大広告等の禁止』『連鎖販売取引における書面の交付』『連鎖販売契約の解除等(クーリング・オフ制度)』など、連鎖販売取引に関する様々な規定を設けていて、これらのルールを通じて購入者等の利益を保護しています」(村山さん 以下同)
一方「マルチ商法」とよく似た「ネズミ講」と呼ばれるものは、法的に禁止されているという。
「この2つは、ピラミッド型の組織を形成し、新規加入者の負担により上位の者が利益を得る点で似ていますが、違いは商品の販売などの実体があるかどうかです。ネズミ講には商品の販売などの実体がありません。ただ、商品の販売を装っていても、明らかに価値がないような商品を販売する場合のように、実質は金品の配当組織といえる場合には、ネズミ講として禁止の対象となるかもしれません」
●クーリング・オフ期間が過ぎていると思ってもあきらめない!
それ自体が違法ではないとすると咎める理由もみつからず、断るのも大変となりそう。執拗な勧誘をうけ(これは場合によってはルール違反であるが)、根負けして商品を購入してしまったものの、やはり返品したい場合はどうすればいいのか?
「まずは、契約書面の交付を受けた日か、商品(その契約が商品の再販売をする類型である場合で購入したその商品)の最初の引渡しを受けた日のいずれか遅い日から20日間を経過していなかったら、『クーリング・オフ』(契約の解除)制度を利用すること。また、その20日間の経過後だと思っても、簡単にあきらめてはいけません」
実は状況によっては、契約から時間が経っていても間に合う可能性もあるのだという。
「連鎖販売取引のクーリング・オフは、基本的には、契約書面を受け取った日から起算して20日が経過するまでに行う必要があります。ただ、その契約書面というのは、法律で定められた情報がきちんと記載された書類をいうので、それに不備があったら、まだ法律で定められた契約書面を受け取っていない。つまり、まだ20日の期限がスタートしていない状態だと考える余地が出てくるわけです」
契約の際の書類はかなり文章が長くて細かいものが多いので、正直ほとんどの人がしっかり目を通していないのではないか? しかし、後にこれが重要な証拠となる可能性大。クーリング・オフ期間が過ぎていると思ってもあきらめずに専門機関へ相談すれば、解決できる可能性があるのだ。そのことはぜひ覚えておきたい。
(高山惠+ノオト)