「いじめ」をなくすために親がすべきこと

第3回 いじめの認知件数が過去最多に! その背景にあるものとは?
文部科学省が昨年10月に“学校のいじめ問題”に関する深刻な調査結果を発表しました。『2015年の全国の小中高校と特別支援学級で認知されたいじめの件数』が、調査開始以来最多になったというのです。連日、いじめの痛ましい事件のニュースもあとをたたず、親御さんとしては目にするたびに“ウチの子は大丈夫かしら…”と心配になってしまうのでは? そこで、わが子がいじめの犠牲になっていないか、いじめの加害者になっていないかを知るために、親として心得てほしいことについて、数々の学校問題に取り組んできた白梅学園大学教授の増田修治先生にお話しを伺いました。

●子どもは、いじめられていることを、なかなか言えないもの

「被害者の子が、いじめの苦しみをなかなか誰にも言えず、周りが気づいたときには命を絶ってしまった…そういったケースも少なくありませんね。“なぜもっと早くに先生や親に言えなかったのか…”と思ってしまう人も多いかもしれません。しかし、親御さんにこれだけは覚えておいていただきたいのは、“自分がいじめられている”ということは、なかなか親に言えないもの。いや、言わないものだと思っていてください」(増田先生 以下同)

特に小学校高学年以降、思春期に入っていった頃からは、ますます言わなくなるという。

「親御さんは、日ごろの親子関係から“ウチの子に限って言わないはずがない”と思ってしまうのももちろんわかります。しかし、思春期以降になるとプライドもあります。つまり、“いじめられている”と言うことは自分がダメ人間だと認めたことになるような気持ちになってしまう。だから言えないのです。さらに、大好きな親には心配をかけたくないという思いもあるのです」

いじめをなくすために、親がすべきこと

●子どもにヘルプを言える能力を身に付けさせること、へルプが言える環境づくりをすることが、いじめの抑止力に!

だからこそ、言える環境づくり、雰囲気を意識的に作ってやることが大事だと、増田先生は話します。

「親御さんにお願いしたいのは、子どもに“ヘルプ”が言える能力を身に付けさせることと、言える環境を与えてやるということです。今の親御さんは、お子さんに強くあること、なんでも自分の力でできること、自立することを求めすぎています。幼稚園・保育園のころから“しっかりしなさい!”と言われ続けています。そうなると、いざというときにヘルプが言えなくなってしまう。実はそうじゃなくて、子どもは甘えつつ自立していくものなのです。むしろそうやって育った子は、いつか必ず自分から自立していけるのです。だから、大事なことは“自分はここまでは大丈夫。でも、ここからは助けて…”と、言えることこそが、生きていくなかで自分を守るために大事なことなのです」

これは、加害者側にも言えることだという。

「加害者にも、いじめる原因や動機というものがあります。それは、“ストレス”です。ストレスは人をイライラ、ムカムカさせ、やがてそれを解消するために弱い他者を支配し、攻撃するのです。それが人間の心理です。いじめの加害者の子も、何らかのストレスに追い込まれ、それを爆発させる前にヘルプが言える環境がないのです。だからこそ、いじめの加害者にも被害者にもさせないためには、親御さんたちが子どもをありのままに受け止めてやる。共感してやる。ヘルプを求められる環境を作ってやることが、いじめの抑止力になるのです」

日本全体が“しっかりした子ども”“強い子ども”を求める雰囲気があるからこそ、子どもたちはヘルプが言えず、苦しみもがいているという。

「親御さんとしては、いじめる側はもちろん、いじめられる側にもなってほしくないと願いますね。それならば、常に“私たちはアナタのことをしっかり見守っているから大丈夫”というメッセージをお子さんに送り続けることです。そして、何かあったときには、ありのままのわが子を受け入れること。“いざというときは、いつでも助けを求めなさい”と、言ってあげてほしいと思います」

親、教師、社会の大人が子どもたちをそういった雰囲気で見守ることこそが、“いじめ問題”の根本解決の第一歩なのかもしれません。
(構成・文/横田裕美子)

お話を伺った人

増田修治
増田修治
白梅学園大学 子ども学部子ども学科教授
埼玉大学教育学部を卒業後、28年間の小学校教員 生活を経て、現職。専攻は、臨床教育学、学級経営論。 小学校教諭を対象とした研修の講師なども務め、さまざ まな学校問題に取り組んでいる。また、新聞、テレビ、雑 誌などメディアのコメントなども多数。「笑う子育て実例集」 (カンゼン)ほか、著書も多数。
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