●赤ちゃんポストよりも一歩早い支援を
「こうのとりのゆりかご」に預けられる子どもの数は年々減少しているとのこと。その一方、慈恵病院で実施している「妊娠SOS相談」に届く電話とメールは増加傾向にあるといいます。田尻さんはこれまで延べ1万件以上の相談に対応してきたそう。
「望まない妊娠で悩んでいる人のなかには、さまざまな支援についての情報がない人もいます。そうした人に、自分も子どもも救える道があるんだと知らせることが支援の第一歩だと思います。自治体にも同様の窓口がありますが、相談時間が決まっていることがほとんど。慈恵病院と同様、24時間受け付け可能な相談窓口を増やすことが急がれると考えています」(田尻さん、以下同)
また、そもそも望まない妊娠を防ぐため、子どもにとっての“育ちの環境”を向上させていくことが必要だと語ります。
「これまで相談を受けるなかで、未成年や未婚など状況はさまざまですが、望まない妊娠で悩む方に共通して、自己肯定感の低さを感じることが多々ありました。たとえ一般的な家庭に育っていても、自分を大切にできなかったり、男性に依存してしまったりと、予期せぬ妊娠の多くは女性の自己肯定感が低いことに端を発しているのではないかと。ただ、これは科学的にも証明されていることですが、育ちの環境が大いに関わっているため、幼少期の親との関係をどうにかしないといけない、そう考えるようになりました」
●“愛情豊かな親”を増やしていきたい
自己肯定感の高い親が自己肯定感の高い子どもを育てる。当たり前のようなことですが、この難しさも田尻さんはよく理解しています。
「自尊感情というのは、努力で得られるものではなく連鎖するものです。愛情豊かな親にしっかり受け止められて育った子は、自己肯定感が高いと言われています。ただ、子どもは親を選べません。そうした状況を踏まえて、社会がもっと幼児教育を支援する必要があると思います。子どもを産み育てやすい環境を整えるだけではなく、育ちの環境をサポートすることが大切ではないでしょうか」
田尻さんは、慈恵病院の看護部長を定年で引退後も、熊本を中心に、お母さん向けの育児セミナーの監修を務めるなど精力的に活動しています。
「子どもたちは、パパやママの愛情をいっぱい受けて欲しい。家族の肌の温もりを感じて育つことができるように、全国でセミナーや支援の輪を広げていきたいです」
養育が困難な状況にも関わらず子どもを出産し、赤ちゃんポストに預ける。そうした親たちを無責任だと断じるのではなく、彼らの背景にあるものを想像し、支援の手を絶やさないことが大事なのかもしれません。
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)