PET検査というと、がんを見つける検査というイメージが強いかもしれません。しかし、じつはがんの発見だけでなく、様々なシーンでPET検査は用いられるようです。一体、どのようなシーンでPET検査が役立つのかについて、検査専門の施設でPET検査を数多く実施している「ゆうあいクリニック」の吉田先生に教えていただきました。
監修医師:
吉田 啓介(ゆうあいクリニック)
金沢大学医学部(現・金沢大学医薬保健学域医学類)卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修了。2024年、神奈川県横浜市港北区に位置する「ゆうあいクリニック」の院長に就任。医学博士。日本核医学会核医学専門医・PET核医学認定医、日本医学放射線学会専門医。検診マンモグラフィ読影認定医師。
PET検査はがんの検査だけじゃない?
編集部
PET検査と聞くと、がんの早期発見に役立つというイメージがありますが、がんだけじゃないと聞きました。
吉田先生
はい。たしかに「PET検査はがんの検査」というイメージが強いですが、がん以外の病気の診断や検査にも使用されています。
編集部
具体的に、どのような疾患に対して用いられているのですか?
吉田先生
例えば、アルツハイマー型認知症の診断に役立つPET検査もあります。一般的に「アミロイドPET検査」と呼ばれています。
編集部
なぜ、PET検査でアルツハイマー型認知症を診断できるのでしょうか?
吉田先生
現在、アルツハイマー型認知症の原因には「アミロイドβ」という物質が深く関わっていると考えられています。アミロイドPET検査では、脳内にアミロイドβが蓄積しているかどうか、確認することができるからです。
編集部
アルツハイマー型認知症の原因と考えられている物質を調べられるということですね。
吉田先生
はい。現時点でアルツハイマー型認知症の原因は完全に解明されていませんが、「発症する20~30年前から脳内にアミロイドβが蓄積していき、神経細胞を破壊することで発症する」という学説があります。アミロイドPET検査では、このアミロイドβに結合する性質を持つ検査薬剤を体内に注射します。それにより、脳内でアミロイドβがどれくらい蓄積しているか、その程度を知ることができるのです。
編集部
アミロイドPET検査では、確実にアルツハイマー型認知症を診断することができるのですか?
吉田先生
脳内にアミロイドβの蓄積が確認されたとしても、アルツハイマー型認知症が必ず発症するとは限りません。また、ほかの神経疾患や正常認知機能のある高齢者も、ときには同じような蓄積がみられることもわかっています。そのため、この検査だけでは確定診断をつけることはできません。ただし、アルツハイマー型認知症の診断だけでなく治療方針を決定するためにもこの検査は有用であり、例えばアミロイドβを脳内から除去する薬が現在は登場しています。その薬を投与するか、判断するために検査をおこなうことがあります。
PET検査で見つかるアルツハイマー型認知症以外の疾患
編集部
アルツハイマー型認知症以外に、PET検査が有用な疾患はありますか?
吉田先生
心臓サルコイドーシスや大型血管炎の評価に、PET検査が用いられることもあります。
編集部
心臓サルコイドーシスについて教えてください。
吉田先生
リンパ節、目、肺、心臓などの、全身の様々な臓器に肉芽腫(にくげしゅ)と呼ばれるしこりができる病気をサルコイドーシスと言います。発症の原因は不明であり、難病指定されている疾患です。それが心臓にできたものが心臓サルコイドーシスです。
編集部
心臓サルコイドーシスになると、どのような症状がみられるのですか?
吉田先生
強い動悸、めまい、立ちくらみ、失神、手足のむくみなどが表れます。また、致死性不整脈が起こり、突然死の原因になることもあるので注意が必要です。
編集部
なぜ、PET検査が心臓サルコイドーシスの診断に有用なのでしょうか?
吉田先生
心臓サルコイドーシスのPET検査では、ブドウ糖によく似た性質を持つFDGという薬剤を注射して、FDGの集まり具合によって疾患の活動性を評価します。FDGは炎症を起こしている病変に集まりやすいという性質があるため、FDGの集まり具合を確認することで心臓サルコイドーシスの評価をすることができるのです。
編集部
大型血管炎についてはいかがでしょうか?
吉田先生
大型血管炎は大動脈とその主要分枝に炎症が生じる疾患の総称で、「高安動脈炎」と「巨細胞性動脈炎」の2つに分類されます。FDGは炎症を起こしているところに集まりやすいという性質があるため、PET検査をおこなうことで、全身のどこで炎症が生じているのか、活動性の有無について一度の検査で診断することが可能です。
配信: Medical DOC