がん発見のきっかけは技師のミスだった
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
マクドゥエル
今回の手術をするまでは、自分の病気や治療に対して受け身の態度で、積極的に情報を集めようとはしていませんでした。最初に右胸の全摘を受けた後、ホルモン療法は続けていたものの、これで全て解決したものと考えていました。だから今回、同じ右側に浸潤がんができた時は、全く予期しておらずパニックに陥りました。しかし、全摘後も完全に組織が取り除かれたわけではないので、またがんが生じる事もあり得るわけです。
編集部
なにかを変える出来事としては十分ですね。
マクドゥエル
今は何が起きても不思議ではないと考えて、1日1日を大切に生きようと思うようになりました。自分にとって大切な事に優先順位をつけ、取捨選択し、自分が無駄だと考えることを思い切って切り捨て、生活の充実度を高めることが重要だと考えています。他人の顔色を窺ったり、「周りの人がどう思うだろうか」などを気にしたりするのはやめようと思いました。私の病気と治療に対して無神経なことを言う人には、たとえ親族であろうと距離を置くことにしました。他人に迷惑をかけない限り、自分のやりたいことをやりたいように実行しようと思うようになりました。
編集部
生活面は変わりましたか?
マクドゥエル
今まではお酒が好きで、毎日のようにビールを飲んでいましたが、今は週末だけ少し嗜む程度になりました。これは、自分でお酒を控えようと思ったのではなく、自然とそうなったのです。また、仕事や学業でどんなに忙しくてもヨガやウォーキングの時間を確保し、意識してしっかり体を動かすようになりました。特に今服用しているホルモン抑制剤は、肥満や骨粗しょう症になりやすいと言われたので、運動は必須です。また、質の良い睡眠の確保と余裕のあるスケジュール調整に気を付けるようにもなりました。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
マクドゥエル
私の場合、2度目のがんは年1回の画像診断で見つかりましたが、実は本当にラッキーな偶然だったようです。私の腫瘍内科医は、定期画像検査の際に、全摘した右胸のマンモグラフィは検査せず、左側だけの検査指示を出していたのですが、たまたま技師が間違って指示のなかった右胸のマンモグラフィを撮影した結果、異常が発見されたのです。症状はなかったので、もし、技師が間違って右胸を撮影しなかったら、かなり発見が遅れたと思います。しこりなどもなかったようで、手術前の検診でも、誰も私のがんを触知できませんでした。医師ですら触診で気づくのは不可能だったのです。
編集部
発見できて良かったですね。
マクドゥエル
アメリカでは医療費が高く、保険適用外の自費診療は法外な費用がかかるので、マンモグラフィや超音波検査は、1年に1度しか受けられません。でも、私の場合1年に1~2回は日本に帰るので、その際に画像検査を受けておけばよかったと思いました。1年間も待つのは不安になるので、これからは日本に帰るたびに検査を受けたいと思っています。アメリカでは手軽に利用できる人間ドックのような制度もないので、これからはほかのがん検診なども日本で毎年受けようとも思っています。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
マクドゥエル
手術後1年になりますが、体調はとてもいいです。昨年はヨーロッパの学会にも出席しましたし、論文も発表しました。術後から数か月間も続いていた気分の落ち込みや疲れやすさ、胃の不調も解消しました。これからは、もっと体力強化に努めたいです。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
マクドゥエル
医療関係者は大変忙しいので、一人ひとりの患者に寄り添う事は難しいとは思いますが、がんの宣告を受けた患者は精神的にもかなり深刻な状態です。私も、健康な時には気にならないような些細なことが気になり、当時はとても傷つきやすくなっていました。その点を理解して、病気の説明をしていただきたいと思います。がん告知直後の患者は、冷静な判断力を失っているので、説明を受けても、それを理解するのには通常より時間がかかります。その辺をわかっていただきたいと思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
マクドゥエル
私は、全摘後の乳房再建手術をやらない決心をしました。これは悩みに悩みましたが、自分の人生の優先順位を決め、再建のメリット・デメリットを検討した結果、再建しないことに決めました。自分のがん治療やそれに伴う処置、検診など、医師から言われたことを受け入れるのも大事ですが、自分で考えて判断することもとても大事です。今後についても、担当医は「もう両胸を全摘したからマンモグラフィはできない」「これからは、自分でしこりを見つけたら検査をしましょう」という方針でした。しかし、今回のがんにもしこりはなかったことから、私は納得できず「何らかの画像検査を定期的にするべきだ」と交渉し、年1回の超音波検査を了承してもらいました。それでも、私としては不安なので、日本に行ったときに日本の医師と相談して納得できる検査プランを立てようと考えています。病気になってもそれを受け入れながら、楽しい充実した人生を目指してプランを立て、実行していくことが大切だと考えます。そのために、どうしたら自分が再発の恐怖に負けずに、幸せな生活を送れるかを第一に考え、必要な事は取り入れ、また不必要な事は思い切って切り捨てていくべきだと考えています。「災い転じて福となす」。今回の経験を、自分の人生のプラス要因となったと言えるようにしたいと思っています。
編集部まとめ
話を聞くだけでも、日本との違いに驚かされました。当事者であるマクドゥエルさんは、比べものにならないくらいの不安やストレスを感じていたではないでしょうか。この闘病体験記が、同じ病気に悩む人、特に異国の地で闘病している人たちに、少しでも勇気を与えられたらと思います。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。
配信: Medical DOC