「糖尿病を発症したら失明する」「足を切断することも……」など、怖い話を耳にすることはありませんか? 確かにこれらは糖尿病の合併症の結果として恐れられています。いったい、糖尿病の合併症にはどのようなものがあり、どういうことに注意しなければいけないのでしょうか? 永島メディカルクリニックの永島先生に詳しく教えてもらいました。
≫【イラスト解説】「糖尿病」のサイン・初期症状『のどが渇く』『尿が増える』
監修医師:
永島 秀一(永島メディカルクリニック)
2001年山梨大学医学部卒業。自治医科大学附属病院のほか、地域中核病院や内科クリニックで勤務し、この間に自治医科大学大学院を卒業。自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科准教授をへて現職。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科(内科)専門医・研修指導医、日本動脈硬化学会評議員。
糖尿病の合併症にはどのようなものがあるのか?
編集部
糖尿病の合併症にはどんなものがあるのですか?
永島先生
糖尿病にはさまざまな合併症がありますが、そのなかで特に注意が必要なものを三大合併症といいます。具体的には「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」のことを指します。
編集部
それぞれどのようなものですか?
永島先生
まず糖尿病網膜症とは、目の中にある網膜の血管が障害され、視力の低下を引き起こす疾患です。進行すると失明することもあり、現在、日本では成人の失明原因の上位を占めています。
編集部
なぜ、糖尿病で視力が低下したり、失明したりするのですか?
永島先生
網膜とは、光を刺激として受け取り脳の視神経へ伝達する組織のことで、カメラでいえばフィルムのような働きをしています。高血糖の状態が長く続くと網膜にある細い血管で動脈硬化が起こって血管が詰まるほか、詰まった血管の代わりに新しく血管が作られることがあります。そうして作られた新生血管は非常に脆いため、簡単に破けて出血することがあります。このように、網膜の血管で動脈硬化が起きたり、出血したりすることによって、視力低下が起こります。
編集部
それが進行すると、失明するのですか?
永島先生
はい、さらに症状が進行すると、新生血管が網膜を引っ張って網膜剥離を起こします。そういったことなどによって、失明してしまうことがあるのです。
糖尿病腎症と糖尿病神経障害
編集部
糖尿病腎症とはなんですか?
永島先生
高血糖の状態が長く続くと全身の血管が傷つき、血管が詰まったり破れたりします。特に腎臓の濾過装置である糸球体は細い血管が張り巡らされており、糖尿病の影響を受けやすい組織です。糸球体の血管が詰まったり、破れたりすることで腎臓の機能が低下することを糖尿病腎症といいます。
編集部
具体的にどのような症状が出るのですか?
永島先生
初期はほとんど自覚症状がありませんが、進行するとむくみ、貧血、高血圧などが見られます。やがて腎臓の機能が低下して尿が出なくなり、体内の老廃物が尿から排出できなくなって、腎不全という状況に至ります。場合によっては人工透析が必要になることもあります。
編集部
3つ目の糖尿病神経障害とはなんですか?
永島先生
高血糖の状態が長く続くと、全身に張り巡らされた神経の周囲の血管も傷つき、障害が起こります。また、それにより感覚・運動神経や自律神経の障害も起こります。感覚神経に障害が起きると足のしびれ、冷え、痛み、運動神経に障害が起きると筋力低下などが起こり、自律神経に障害が起きると、立ちくらみ、排尿障害、食事の消化不良、下痢、便秘などが起こります。
編集部
糖尿病神経障害も命に関わることがあるのですか?
永島先生
はい。特に気をつけたいのは無症候性心筋梗塞です。通常、心筋梗塞が起きると激しい痛みのためにすぐ気づき、早期に治療を行うことができますが、合併症で糖尿病神経障害が起きると、心筋梗塞になっても痛みを感じにくくなることがあります。そのため、心筋梗塞に気がつかずに治療が遅れてしまい、重篤な状態に陥ったり、命に関わるようになったりする場合もあるのです。
編集部
心筋梗塞が起きても気づかないのですね。
永島先生
はい。そのほか命にかかわらないまでも、生活の質を著しく低下させることもあります。たとえば糖尿病神経障害が進行すると次第に感覚が鈍くなりますが、特に糖尿病神経障害の症状が出やすいのは、体の末端である足です。糖尿病を発症すると全身状態が悪化することから免疫能力も低下し、感染による炎症から足先が壊死することもあります。しかし神経障害が起きているため痛みなどの違和感に気づけず、その結果、壊死が広がり手足を切断しなければならないケースも少なくありません。
配信: Medical DOC