「老人性難聴」は加齢とともに進行する、誰にでも起こり得る自然な変化ですが、放置しておくと日常生活に様々な影響を及ぼします。聞こえにくさを自覚した場合、私たちはどうすればいいのでしょうか。老人性難聴の原因や治療法、早期対応の重要性などについて、「狭山ヶ丘駅前耳鼻咽喉科アレルギー科」の丹羽先生に解説していただきました。
監修医師:
丹羽 克樹(狭山ヶ丘耳鼻咽喉科・アレルギー科)
2005年3月防衛医科大学校医学部医学科卒業。陸上自衛隊入隊、防衛医科大学校耳鼻咽喉科学講座入局。陸上自衛隊幹部候補生学校卒業。北部方面衛生隊、自衛隊札幌病院耳鼻咽喉科、防衛医科大学校大学院、自衛隊中央病院耳鼻咽喉科医官、第15旅団宮古警備隊医官などを経て2022年9月陸上自衛官退官。2023年2月狭山ヶ丘駅前耳鼻咽喉科アレルギー科開院。
歳のせいか聞こえが悪い…原因は?
編集部
年齢とともに、耳が遠くなってきたような気がします。
丹羽先生
「耳が遠い」「聞こえが悪い」などのうち、加齢以外に明らかな原因が認められないものを老人性難聴と言います。だいたい60歳以降で両耳に同じくらいの聴力低下が起こり、特に高音域から聞こえにくくなるのが特徴です。
編集部
どうして聞こえにくくなってしまうのですか?
丹羽先生
難聴は大きく分けて、音の伝わりに異常が出る「伝音難聴」、音を感じるセンサーや音を処理して脳に伝える神経に異常を生じる「感音難聴」、そして、両者の合わさった「混合性難聴」があります。老人性難聴は、感音難聴に含まれます。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
丹羽先生
私たちの体は、加齢に伴い様々な組織の機能が低下していきます。聴覚に伴う機能も例外ではなく、例えば耳の奥にある「内耳」という部分の神経細胞や、そこから脳に刺激を伝える「後迷路」、音を理解する「脳」など、聴覚理解に伴う機能が全般的に低下することにより、感音難聴を生じるのです。
老人性難聴の治療
編集部
老人性難聴には、どのような治療がありますか?
丹羽先生
突発性難聴などの急性感音難聴に対して、初期であればステロイド投与などの薬物治療が有効な場合もあります。しかし、老人性難聴はゆっくり進行するため根本治療は難しく、進行を抑えるような生活指導などをおこなっていくのが治療の目標となります。
編集部
具体的にはどんな生活指導をするのですか?
丹羽先生
適度な運動や上質な睡眠を規則正しく取ること、騒音のある環境はなるべく避けることなどが挙げられます。バランスの良い食事を心がけ、動脈硬化の原因になるような「脂質代謝異常(コレステロール高値や中性脂肪高値)」や「糖代謝異常(いわゆる糖尿病)」などにならないようにします。すでになっている場合は、きちんと治療する必要があります。
編集部
周りの人が気をつけることはありますか?
丹羽先生
老人性難聴は、特に高音域が聞こえにくくなります。聞こえにくい相手に話しかける際、どうしても声を張ってしまいがちですが、そうなると声が高くなってしまう人が多いのです。老人性難聴の人に話しかけるときは、少し低めの声で話してあげるといいでしょう。
編集部
ほかにも注意手すべき点があれば教えてください。
丹羽先生
老人性難聴の場合、音が聞こえないだけでなく「音自体は聞き取れても、何を言っているのかが聞き取れない」という「語音弁別能」も低下します。そのため、周りの人はなるべく静かな場所で、ゆっくり話しかけてあげることも大事です。
編集部
なるほど。
丹羽先生
音自体を聞き取るだけではなく、内容を理解してもらうためには、「今から話しかけますよ」というのをまず認識してもらい、注意を向けてもらうことも大事です。そのため、後ろからいきなり話しかけるのではなく、例えば肩をトントンとしてこちらを向いてもらったり、「ちょっといい?」と一言伝え、こちらに意識を向けてもらった後に話しかけたりすると、同じ声量でも伝わりやすくなります。
配信: Medical DOC