MRSA感染症の前兆や初期症状について
MRSA 腸炎とよばれていたものには様々な疾患が含まれていることが分かっている以上、明確な初期症状を説明するのは難しいですが、先述したディフィシル腸炎のほか、MRSA 腸炎として報告されている症例の中でも MRSA が悪さをしていた可能性が十分にあるものをベースに、前兆や初期症状を紹介します。
ディフィシル腸炎は抗菌薬投与中の方に多い感染症であるため、その方の原疾患の背景によってもディフィシル腸炎の症状も左右されますが、軽症例では1日に3回以上の下痢や腹痛、吐き気、食欲不振、発熱といった症状が出ることが一般的です (参考文献 5) 。
重症になると下痢によって水分や身体に必要な物質が外へ出ていきすぎることによるショック等の症状や、最重症例では腸がパンパンにはれたり、腸に穴が開いて腹膜炎という状態になったり、多臓器不全に陥ることがあります (参考文献 5) 。
MRSA腸炎として報告された 2004年から2014年までの36症例のレビュー (参考文献 3) では、MRSA が産生する毒素 (TSST-1) が検出され、かつトキシックショック症候群とよばれる毒素による症状として矛盾しないものが2例ありました。他の症例もトキシック ショック 症候群と類似した症状が多かったとされています。
これらの毒素について評価された症例は36症例中4例であったため、検査すれば毒素が検出された症例はもっと多かった可能性もあります。
このブドウ球菌性トキシックショック症候群は、皮膚が赤くなるほか、発熱、発疹、低血圧、多臓器不全などの症状が2日程度の経過で急速に現れる重症疾患です (参考文献 6) 。
MRSA腸炎とされていた疾患は「外科手術後に、抗菌薬投与していた患者」という特徴があったようです (参考文献 1, 2) 。このような患者さんは一般的に入院中の方と思いますので、下痢症状が新しく出現した際には担当の医療スタッフへ遠慮なく伝えてください。
MRSA感染症の検査・診断
MRSA腸炎とされてきた症例の中で相当数を占めると思われるディフィシル腸炎やトキシックショック症候群の検査では、原因菌の遺伝子や毒素の有無を調べます。
ディフィシル腸炎のリスク因子を持っている人で、急性の下痢症状がある場合には便検査をしてディフィシル菌が産生する毒素が含まれているかどうかや、関連抗原の検査、ディフィシル菌の遺伝子が含まれているかどうか確かめる検査をします (参考文献 5)。
重症化していると考えられる場合には画像検査で腸の状態を視覚的に確かめる場合がありますが、一般的には便を用いた検査で診断をして治療を行います (参考文献 5) 。
MRSAによるトキシックショック症候群が疑われる患者には、血液や粘膜を採取・培養してから MRSA が検出されるかどうかを調べますが、検出されなくても臨床症状のみで診断することもあります (参考文献 6) 。
トキシックショック症候群ではないMRSAによる腸炎は、文献も少なく明確な検査・診断方法が確立されていませんが、ディフィシル腸炎やトキシックショック症候群が除外されれば、総合的に真の「MRSA腸炎」として診断・加療されると考えられます。
配信: Medical DOC