あなたも危険! 30代から始まる筋肉減少
筋肉の減少と聞くと中年・初老以降の健康課題と捉える人が多いかもしれませんが、実は30代から筋肉の減少は始まっており、放置すると健康に影響が出てしまうこともあります。今回は30代から始められる対策について作業療法士の筆者が解説します。
加齢によって筋肉量が減少し、筋力が低下した状態を「サルコペニア」といいます。筋肉は30代から毎年1~2%ずつ減少し、80歳になると20代と比べて約30%もの筋肉が失われると言われています。サルコペニアは一般的に高齢者に多くみられますが、若い女性にもそのリスクがあることが分かっています。
女性は男性に比べて筋肉量が少ない上に、現代に多いデスクワーク中心の生活では、体を動かす機会も少なくなりがちです。また極端な食事制限を伴うダイエットによって、筋肉量の減少が加速する恐れがあります。
筋肉量が減少すると冷え性や疲れやすさ、転びやすさなどにつながるほか、糖尿病発症のリスクも高くなります。特に「隠れ肥満」の人は、将来「サルコペニア肥満」になるリスクが高いので注意が必要です。
隠れ肥満とは、BMI(ボディマス指数)が正常範囲内であっても体脂肪が多い状態です。具体的には、BMIが18.5~25未満で体脂肪率が30%以上の人が当てはまります。この状態で加齢による筋力低下が進むとサルコペニア肥満となり、心臓、血管の病気や将来の要介護、うつ病などのリスクが高まります。
サルコペニアの予防には、適度な運動が欠かせません。レジスタンス運動(筋トレ)やウオーキングなどの有酸素運動を習慣的に行うようにしましょう。また、これらの運動にはサルコペニアの予防だけでなく、次の3つのメリットもあります。
基礎代謝の向上:
運動によって筋肉量が増えると、基礎代謝が高まり脂肪を効率よく燃焼できるようになります。
基礎代謝とは体温維持や呼吸など、人が生きていくために必要な最低限のエネルギーのことです。筋肉は基礎代謝で最も大きい割合を占めているため、筋肉が増えると脂肪が燃えやすい体になります。効率的にダイエットできるだけでなく、太りにくい体質になれるでしょう。
美肌効果:
運動は美肌に効果的です。適度な運動は血行を促すので、肌のすみずみまで酸素や栄養が行き渡ります。
さらに、筋トレは肌の弾力を高め、土台となる真皮の状態を改善すると言われています。肌にハリが出て、若々しい見た目を保つ効果が期待できるでしょう。
メンタルヘルスの向上:
運動はメンタルの安定にも効果的です。
適度な運動をすると、脳内で「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが出ます。セロトニンは脳内で感情や記憶を司る部分に働き掛け、リラックスやメンタル改善効果をもたらします。この作用が心の健康につながり、日々をよりポジティブに過ごせるようになるでしょう。
サルコペニアの予防には、運動や食生活の改善が効果的です。忙しい日々の中でも取り入れやすい予防法を紹介します。
筋トレを日常に取り入れる:
サルコペニア予防に効果的なのは、日常生活に筋トレを取り入れることです。
通勤時に階段を使う、家事や歯磨きをする際につま先立ちをするなど、日常でできる筋トレはたくさんあります。デスクワークの合間に立ち上がったり、座ったままでかかとやつま先、太ももを上げ下げしたりなど、こまめに体を動かしましょう。
運動習慣を身に付ける:
有酸素運動は、特にサルコペニア肥満の予防に有効です。目安として2日に1回、30分程度のウオーキングをしましょう。
歩きながら軽い会話ができて、少し息が弾む程度の速さが理想的です。時間が取れない場合は、1回10分以上のウオーキングを数回に分けても大丈夫です。スマートフォンの万歩計アプリを活用すると、運動量の管理やモチベーションの維持に役立つでしょう。
栄養バランスの取れた食事:
サルコペニア予防には栄養も大切です。たんぱく質は筋肉の材料になるため、肉や魚、大豆製品、卵などを積極的に摂るようにしましょう。また、筋肉の修復にはビタミンやミネラルも重要です。野菜やきのこ類なども取り入れ、バランスの良い食事を心掛けましょう。
サルコペニアは高齢者だけでなく、若い世代にもリスクがあります。生活習慣を見直し、筋肉を維持して健康的な毎日を送りましょう。
<参考資料>
・サルコペニア診療ガイドライン
・若年女性における隠れ肥満と身体機能との関係
・各論1 様々な臨床病態とフレイルの関連 1. 生活習慣病の管理とフレイル
・糖尿病と筋肉の関係
・筋力トレーニングが美肌に貢献することを世界で初めて報告 ~筋力トレーニングによる血中成分の変化が皮膚老化の改善に関与することを解明~ |立命館大学
・プラス「10」分のウォーキングから始めるストレス対策
・サルコペニアを予防する運動
・サルコペニアを予防する運動
(奏かえで)
配信: LASISA
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