感染性胃腸炎の治療
感染性胃腸炎の治療は、主に対症療法と抗菌薬療法に分かれます。まず、対症療法では、脱水症状への対応が重要です。Na や K を含む経口補水液を飲み、脱水が深刻な場合は経静脈的に輸液が行われることもあります。また、乳酸菌製剤 (整腸薬) や制吐薬を併用することもありますが、腸運動抑制薬 (止痢薬) の使用は推奨されていません。これは、止痢薬が腸内に病原体や毒素を長く留まらせるかもしれないと考えられているためです (参考文献 1) 。
抗菌薬療法は、細菌性胃腸炎の場合に適用されますが、軽症であれば抗菌薬を使用しなくても自然に軽快することが多いです。重症例では、病原体に応じて適切な抗菌薬が処方されます。例えば、赤痢菌や腸管侵入性大腸菌 (EIEC) 、毒素原性大腸菌 (ETEC) 、コレラ菌などによる中等症~重症の腸炎には抗菌薬が推奨されています。また、カンピロバクター腸炎では重症例や症状が遷延する場合にマクロライド系薬が勧められます。
一方、サルモネラ感染症では、抗菌薬が保菌状態を助長する可能性があるため、乳児、高齢者、免疫不全者以外では使用しない方が良いとされています。また、腸管出血性大腸菌 (EHEC) 感染症に対する抗菌薬の使用については、志賀毒素の遊離を促す可能性があるため欧米では推奨されていません。しかし日本では下痢の発症初期にホスホマイシンが有効であるという報告があり、特に子どもに対して処方されることがあります。
感染性胃腸炎になりやすい人・予防の方法
感染性胃腸炎の予防には、衛生管理が重要です。とにかく調理従事者の手指衛生を徹底することが基本であり、家庭でも手洗いや食材の冷蔵管理、適切な加熱を心掛ける必要があります。たとえばノロウイルスを予防するには、カキを 85〜90℃ で 90秒 加熱する必要があります。また、発症者からの二次感染を防ぐためには、手指衛生と環境の清拭・消毒が重要です。ノロウイルス、ロタウイルスやクロストリジウム・ディフィシル (C. difficile) などの病原体はアルコール消毒が効果を発揮しにくいため、流水と石けんによる手洗いが推奨されます。また、次亜塩素酸ナトリウムを用いた環境消毒も有効です。
また、病原体によってはワクチンで予防できるものもあります。乳幼児期にロタウイルスワクチンを接種しておくことで重症な下痢を 90% 以上予防することができるという研究結果があり、ロタウイルスワクチンの接種が推奨されています。 (参考文献 2) 。
参考文献
1.矢崎義雄 et al.「内科學第11版」(朝倉書店、2017年) 228-232, 337-338, 953-957ページ、e付録6-2-4コラム1その他の消化管感染症
2.厚生労働省「ロタウイルス」 (最終閲覧日 2024年9月4日)
配信: Medical DOC
関連記事: