「未来の糖尿病治療」は自動でインスリンを注入できる? 最新技術が切り拓く糖尿病治療を専門医が解説

「未来の糖尿病治療」は自動でインスリンを注入できる? 最新技術が切り拓く糖尿病治療を専門医が解説

糖尿病治療は今、患者さんの生活に寄り添う形で進化し続けています。最新技術である「インスリンポンプ」や「連続血糖測定(CGM)」が実現した治療の自動化に加え、大規模なリアルワールドデータの活用も注目されています。AIやリモートモニタリングがもたらす近い将来の糖尿病治療は、どのように変化するのでしょうか? 国立国際医療研究センター糖尿病情報センター長の大杉満先生に解説していただきました。

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監修医師:
大杉 満(国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター長)

東京大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、ハワイ大学内科、ワシントン大学(セントルイス)内分泌・糖尿病・脂質研究科で研修及び研究に従事した後に帰国。東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科、三井記念病院、東芝病院(現・東京品川病院)で勤務の後、現職。糖尿病のみならず、内分泌疾患、肥満症の臨床及び、新規治療法の開発、ホームページを通じた情報提供をおこなっている。日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会指導医、米国内分泌糖尿病代謝専門医。

臨床試験とJ-DREAMSの違いとは

編集部

糖尿病治療が進歩するためには、どのような手続きが必要なのでしょうか?

大杉先生

医療の進歩には「臨床試験」という大規模なテストが必要です。臨床試験とは、新しい治療法や薬の効果を確認するために、多くの患者さんの協力のもとにおこなわれます。小規模な試験でも被験者が3000人ほど、大規模な場合は1万5000人以上が対象になることもあります。非常に厳格な方法で進められ、何十人もの医療スタッフがデータを正確に評価するため、試験は最低でも3年ほどかかります。

編集部

この方法における問題点はあるのでしょうか?

大杉先生

臨床試験の結果が実際の医療に反映されるまで、5年ほどかかることが一番の問題です。この間に新しい治療法や技術がどんどん進歩してしまうため、試験が終了した段階で、試された治療法が古くなってしまう場合もあります。

編集部

J-DREAMS(診療録直結型全国糖尿病データベース事業)とは、どのようなことができる事業なのでしょうか?

大杉先生

J-DREAMSは「リアルワールドデータ」を活用し、実際の医療現場で使用される薬や治療法と、その結果(患者さんの健康状態など)を集めたデータベースです。臨床試験と比べると厳密さは劣りますが、様々な方法を用いて信頼度の高いデータを集めることができます。これにより、臨床試験では得られないような薬の使い方や組み合わせの効果を探ることが可能になります。

編集部

臨床試験との違いについて具体的に教えてください。

大杉先生

通常の臨床試験では、薬の組み合わせについて比較できるのは限られた数、例えば2〜3通りの組み合わせだけです。一方で、J-DREAMSのデータを活用すると、多くの薬の組み合わせを調査することができ、糖尿病治療薬に関しては約1400通りの異なる組み合わせがあるようです。このように、多様な組み合わせをデータに基づいて検討できるのがJ-DREAMSの大きな特徴です。

糖尿病治療とJ-DREAMSの可能性を知る

編集部

実際の糖尿病治療の現状はどのような診察がおこなわれているのですか?

大杉先生

現在の臨床ですと、例えば「ヘモグロビンA1cを見ると血糖が高い状態なので、もう1つ薬を増やす必要があります」といった説明が一般的です。また、多くの臨床試験から得られたデータで、半年後に「ヘモグロビンA1cがどの程度下がるか」の予測はできますが、患者さんは千差万別なので、実際に治療してみないと結果はわからないのが現状です。

編集部

J-DREAMSの仕組みを使うと、どのような変化が期待できますか?

大杉先生

J-DREAMSのデータを活用する仕組みができあがれば、同じような背景を持つ患者さんに対して、具体的な薬剤や治療の効果を個別の患者さんに合わせて説明できます。たとえば、「3ヶ月後や6ヶ月後にはヘモグロビンA1cがこのくらい下がるでしょう」と伝えることで、患者さんの理解を深めることができると思います。

編集部

改めて、J-DREAMSの仕組みを使うメリットを具体的に教えてください。

大杉先生

1つは大規模なリアルワールドデータを活用できる点、もう1つは、個別化医療が可能になる点です。AIや機械学習を用いて、どのような背景を持つ患者さんに対してどの薬が選ばれやすいかを総合的に分析できます。具体的には、血糖コントロールや肥満、腎機能など、さまざまな要素を考慮しながら、治療効果の期待値を算出できると考えています。

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