風邪などの一般的な症状から慢性的な疾患まで、幅広く用いられる「漢方薬」。じつは、精神疾患にも用いられることがあることをご存知ですか? 一体、どのような漢方薬が精神疾患に用いられるのか、「東西医学ビルクリニック」の齋藤先生に解説していただきました。
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監修医師:
齋藤 竜太郎(東西医学ビルクリニック)
帝京大学医学部卒業。川崎幸病院での勤務を経た1999年、「東西医学ビルクリニック」副院長に就任、2005年より院長に就任。東洋医学と西洋医学の結合による、心と身体にやさしい医療の提供と研究をおこなっている。日本整形外科学会専門医。日本東洋医学会、日本整形外科学会、日本統合医療学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本バイ・ディジタルオーリングテスト協会の各会員。
精神疾患に用いられる漢方薬とは?
編集部
精神疾患に漢方薬が用いられることもあるのですか?
齋藤先生
はい、症状によっては漢方薬を用いることもあります。場合によっては、抗うつ剤や抗不安薬などの西洋医学の薬と漢方薬を併用したり、漢方薬単独で使ったりします。
編集部
具体的に、どのような疾患に対して使うのですか?
齋藤先生
その前に、まずは精神疾患を「精神病」と「神経症」に分けてイメージする必要があります。精神病とは、現実を検討する力が障害されたり、自他の区別ができなかったりすることを指します。具体的には、統合失調症をイメージするといいかもしれません。その一方、神経症とは主にストレスによって起こる心身機能の障害のことで、ノイローゼをイメージするとわかりやすいと思います。
編集部
精神病と神経症の、どちらに漢方薬が使われるのですか?
齋藤先生
一般に、精神病には漢方薬よりも西洋医学の抗精神病薬を使用する方が、効果が期待できるとされています。ただし、うつ病が軽症である場合など、一部では漢方薬を活用することもできます。
編集部
うつ病には漢方薬は効かないということですか?
齋藤先生
漢方薬でうつ病を根本的に治すことは難しいのですが、うつ病から起こる症状の軽減には役立つこともあるかもしれません。また、抗うつ剤と漢方薬を併用することで、抗うつ剤の効果を増したり、抗うつ剤の副作用を軽減したりする効果も期待できます。
漢方薬と神経症
編集部
それでは、神経症についてはいかがですか?
齋藤先生
神経症の症状には、漢方薬が効きやすいとされています。神経症には不安を感じたり、ちょっとしたことでイライラしたり、クヨクヨ悩んだりと、症状は多岐にわたります。このような症状に悩まされているときには、漢方薬が効果を発揮することがあります。
編集部
具体的に、どのような症状のときにどの漢方薬を使うのか教えてください。
齋藤先生
例えば、不安神経症の症状が強く、神経が衰弱している患者さんに対しては「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」を処方します。桂枝加竜骨牡蛎湯を処方すると、イライラが取り除かれて不安が落ち着きます。また、子どもの夜泣きや夜尿症にも使われます。
編集部
ほかにも具体例を教えてください。
齋藤先生
精神的に不安定で「なかなか眠れない」という悩みを抱えている人には、「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」を処方することもあります。「大事な試験などの前で緊張して眠れない」といった興奮状態にも処方されます。ただし、柴胡加竜骨牡蛎湯は体力がある人に適した漢方薬なので、体力がない人は服用しないようにしましょう。
編集部
ほかにもありますか?
齋藤先生
疲れやすい人やうつ症状が出ている人には、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」が効果的です。また、悩みが大きくなると、のどに引っかかりのある感じがする人もいると思います。その場合には、「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」を処方します。ストレスがあって、喉のつかえを感じたり、つい咳払いをしたりする人に処方される漢方薬です。
編集部
漢方薬には色々な種類があるのですね。
齋藤先生
ほかにも、疲れて精神が不安定な人には「加味帰脾湯(かみきひとう)」、更年期障害がみられる人には「加味逍遙散(かみしょうようさん)」を処方することもあります。これらの漢方薬だけで症状の改善が難しい場合には、必要に応じて抗うつ薬などをプラスすることもあります。
配信: Medical DOC