介護に関係のない話で始まって恐縮ですが、先日ある観光地に行った際に見た2つの張り紙が気になりました。
一つはコンビニエンスストアの店内に張ってあったもの。「当店でも、従業員の高齢化が進んでおります。作業のスピードが落ちることなどにご理解下さい」というもの。
もう一つは観光客に人気で行列ができる飲食店に張ってあったもので、「当店では『どれぐらいの時間で入店できるか』という問い合わせには一切お答えしておりません。店員が答えたとしても、それは店の公式な回答ではありません」という内容でした。
いずれも、過去に来店客から強い苦情があり、店員のメンタルに影響を及ぼすような事態が発生したものと想像できます。最近では「モンスタークレーマー」「カスタマーハラスメント」という言葉がごく普通に聞かれるようになりましたが、その実態を見せつけられたような気がしました。
この問題は介護業界にとっても無縁ではありません。
例えば、介護事業所で利用者への虐待が発生して、従業員が逮捕されたり、事業所が行政処分を受けたりするニュースが報じられると、SNS上では「介護職が利用者に殴られてケガをしてもニュースにならないのに、介護職が利用者に強い口調で接したら虐待になるのはおかしいのではないか」といった旨の発言で一杯になります。
このことからも、直接的な暴力に限らず、利用者やその家族などからのハラスメントに悩んでいる介護職は少なくないと思われます。
ところが、介護業界の労働組合である日本介護クラフトユニオンが組合員に対して実施したアンケート調査によると、「直近2年以内に利用者・家族から何らかのハラスメントを受けた」と回答したのは26.8%であり(2024年9月5日発表「2024年度就業意識実態調査」より)、SNSなどでのハラスメント被害の声に比べると「意外に少ない」という印象を受けます。このギャップはどこから生じるのでしょうか。
もちろん、SNSで書き込みをしているのは「ハラスメントを受けた人だけ」ですので、介護業界全体の声が正しく反映されているわけではありません。またSNSという特性上、「話を盛っている」人がいることも考えられます。
しかし、それ以外の理由は考えられないでしょうか。
例えば、介護職自身が「自分がハラスメントを受けている」ということを自覚できていないケースです。介護職は学校や就業後の研修で「ご利用者様第一」「ご利用者様の要望にNOと言わない」などという意識を植え付けられます。
そのことが「利用者や家族にどれだけ理不尽なことを言われても、それに従うのが当然」という思考になっている可能性があります。特に、介護職が「ハラスメントを受けた」と会社に訴えても、会社が「それぐらい我慢しろ」という対応だと、介護職側はその問題から目を背けようとして、自分は「ハラスメントを受けていない」という思い込みに逃げてしまう可能性もあります。
冒頭で紹介した2つの張り紙は、いずれも表現こそ大人しいですが「店員へのハラスメントは許さない」という店舗側の従業員を守る姿勢の表れとも言えます。
それをあえて人目につくところに掲げることで、店舗側のハラスメント防止に対する意識の高さを店員に示す形にもなりました。
もしかしたら、この張り紙を見たことで「こんな面倒くさいことを言っている店は嫌だ」と利用を止める客が出るかもしれません。
しかし、一時的に客足が減少したとしても、店員の離職防止などに繋がれば、長期的なメリットは大きいのではないでしょうか。
介護の三ツ星コンシェルジュ
配信: 介護の三ツ星コンシェルジュ
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